社長1人の会社でも社会保険に加入する?義務になる条件と例外を一次情報で確かめる
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会社を設立した、またはこれから設立する予定で、従業員はいない「ひとり社長」の方に向けた記事です。会社員を辞めて独立した直後で、国民健康保険のままでいいのか、それとも会社で社会保険に入る必要があるのかを決めかねている方が、自分の状況を当てはめて判断できるように書いています。
先に答え:社長1人の会社でも、役員報酬があれば社会保険に加入する

結論から書きます。株式会社でも合同会社でも、法人を設立して社長に役員報酬を払うのであれば、従業員が1人もいなくても健康保険と厚生年金保険に加入するのが原則です。「うちは社長しかいないから社会保険は関係ない」と考えて会社設立の準備を進めると、あとで手続きと保険料の見込みが大きくずれます。
根拠は日本年金機構の説明にあります。法人の事業所で、常時従業員を使用するものは健康保険・厚生年金保険の加入が法律で義務づけられていて、その「従業員」には事業主のみの場合を含むと明記されています。つまり、社長1人だけの法人も対象です。
一方で、すべてのひとり社長が当てはまるわけではありません。役員報酬をゼロにしている場合や、社長が70歳以上の場合は扱いが変わります。この記事では、加入の義務がどこから生じるのかを順にたどり、例外に当たるかどうかを自分で確かめられるようにしていきます。
事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
このサイトでいう「社会保険」は健康保険と厚生年金保険のこと

話を進める前に、言葉の範囲をそろえておきます。会社設立の場面で「社会保険」と言うとき、このサイトでは健康保険と厚生年金保険の2つを指します。40歳から64歳までの人は、医療保険に加入していれば介護保険の第2号被保険者にもなるので、健康保険料と一緒に介護保険料を納めます。
これに対して、労災保険と雇用保険は「労働保険」と呼び、社会保険とは別の制度として扱います。労働保険は労働者を雇ったときに関係してくるもので、社長1人の会社では原則として出番がありません。違いの整理は社会保険と労働保険の違いのカテゴリーにまとめています。
| 区分 | 中身 | 社長1人の会社での扱い |
|---|---|---|
| 社会保険 | 健康保険・厚生年金保険(40〜64歳は介護保険も) | 役員報酬があれば社長自身が加入 |
| 子ども・子育て支援金 | 2026年4月分から健康保険料とあわせて納付 | 健康保険に加入していれば対象 |
| 労働保険 | 労災保険・雇用保険 | 労働者を雇うまでは原則として関係しない |
用語も1つずつ言い換えておきます。被保険者は保険に加入している本人のこと、適用事業所は社会保険の加入が義務づけられた(または認められた)事業所のこと、被扶養者は被保険者に養われていて保険料を負担せずに健康保険の給付を受けられる家族のことです。
介護保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
法人と個人事業で、社会保険の加入義務はここが違う

個人事業主として働いていた人が会社設立をすると、社会保険の扱いががらりと変わります。個人事業の場合、加入が義務になるのは常時5人以上の従業員が働く事務所や工場、商店などで、事業主本人はそもそも被保険者になりません。法人になった途端、社長1人でも適用事業所になるというのが大きな違いです。
法律の条文でも、厚生年金保険法と健康保険法はどちらも「法人の事業所であつて、常時従業員を使用するもの」を適用事業所に挙げています。個人事業所のほうは、業種や人数で線が引かれています。

個人事業所の扱いは制度改正の途中です。厚生労働省は、令和7年の年金制度改正で個人事業所の非適用業種を解消する方針を示しています。とはいえ、これは個人事業のまま続ける場合の話です。会社設立をする人にとっては「法人なら1人でも対象」という一文を押さえておけば足ります。
注意
個人事業主から法人にするかどうかの判断そのものは、このサイトでは深掘りしません。「個人事業から法人へ」のテーマで扱う内容です。社会保険の切り替えについては個人事業主から国民健康保険を経て社会保険へを見てください。
厚生年金保険法 第6条(適用事業所)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
社長が社会保険の「被保険者」になるのは、報酬を受けているから

会社員なら雇われているので社会保険に入る、というのは直感的に分かります。では、雇われていない社長はなぜ加入するのか。日本年金機構が公開している疑義照会回答には、昭和24年の通知(保発第74号「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」)が引かれています。
その考え方は、役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする、というものです。社長は会社という別の「人」から報酬を受け取って働いている、と整理されているわけです。会社設立によって、個人と会社が法律上は別の存在になることの表れでもあります。
この考え方から、2つのことが言えます。1つは、社長1人の会社でも、役員報酬を受けていれば被保険者になること。もう1つは、報酬を受けていなければ、この理屈が成り立たないことです。後者が次の章で扱う例外につながります。
役員報酬あり
法人から労務の対償として報酬を受けているので、社長自身が被保険者になる。標準報酬月額に応じた社会保険料がかかる。
役員報酬なし
報酬を受けていないので、被保険者になる根拠がない。ほかに被保険者がいなければ、会社も適用事業所の要件を満たさない。
報酬の額によって保険料がいくらになるかは、標準報酬月額という区分で決まります。標準報酬月額は、毎月の報酬を一定の幅ごとに区切った「保険料計算用の月給」のことです。具体的な計算は社会保険料はいくら?計算のしかたで確かめられます。
疑義照会回答(厚生年金保険 適用)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
例外1:役員報酬ゼロの会社は、適用事業所の要件を満たさない

会社設立の直後は売上が立たないので、しばらく役員報酬をゼロにする、という選択をする人もいます。この場合の扱いについて、日本年金機構は新規加入に必要な書類の一覧のなかで、次のように書いています。
つまり、社長1人で役員報酬がゼロなら、その会社は社会保険の適用事業所にならず、社長は会社の社会保険に加入できません。その間、社長は国民健康保険と国民年金に加入することになります。会社員を辞めて会社設立をした人なら、退職後の健康保険を任意継続にするか国民健康保険にするかを選ぶ場面でもあります。

ここで気をつけたいのは、報酬をあとから払い始めたときです。報酬の支払いが始まれば被保険者になる事実が生じるので、その時点で加入の手続きが必要になります。いつから加入するのかは社会保険はいつから?加入日の考え方で、報酬ゼロの期間の過ごし方は役員報酬なし・報酬ゼロの場合で詳しく扱っています。
- Q. 役員報酬を少額にすれば、社会保険に加入しなくて済む?
- 報酬が少額でも、法人から労務の対償として受けている限り被保険者になるのが原則です。金額が極端に小さい場合の扱いは疑義照会でも論点になっており、一律には言えないので、管轄の年金事務所に事情を説明して確かめるのが確実です。
- Q. 役員報酬ゼロの間は、何の手続きもいらない?
- 会社の社会保険には加入しませんが、社長個人は国民健康保険と国民年金への加入(または切り替え)が必要です。会社員を辞めた直後なら、退職日の翌日から国民年金の第1号被保険者になります。
- Q. 途中から報酬を払い始めたら?
- 報酬の支払いが始まった時点で被保険者になる事実が生じるので、そこから5日以内に新規適用届と資格取得届を出します。同時に国民健康保険の脱退の届出も忘れずに。
なお、保険料を抑える目的だけで実態と合わない報酬額を設定することは、このサイトではおすすめしません。報酬の水準をどう決めるかは事業の資金計画とあわせて考えるもので、社会保険料の損得だけで決めると、将来の年金額や病気のときの保障も一緒に小さくなります。
健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
例外2:70歳以上の社長は、厚生年金保険の被保険者にならない

年齢による線引きもあります。厚生年金保険法は、適用事業所に使用される70歳未満の者を被保険者としています。そのため、70歳以上の社長が会社設立をして役員報酬を受けても、厚生年金保険には加入しません。健康保険のほうは75歳になると後期高齢者医療制度に移るので、それまでは会社の健康保険に加入します。
| 社長の年齢 | 健康保険 | 介護保険 | 厚生年金保険 |
|---|---|---|---|
| 40歳未満 | 加入 | なし | 加入 |
| 40〜64歳 | 加入 | 健康保険料とあわせて納付 | 加入 |
| 65〜69歳 | 加入 | 市区町村に納める(第1号) | 加入 |
| 70〜74歳 | 加入 | 市区町村に納める(第1号) | 被保険者にならない(在職老齢年金の調整は続く) |
70歳以上で年金を受け取りながら報酬を得る場合は、在職老齢年金の仕組みで年金の一部が止まることがあります。厚生年金保険の被保険者でなくなっても、この調整は続くので注意が必要です。2026年4月から基準額が見直されているため、詳しくは在職老齢年金:年金をもらいながら会社設立と厚生年金と70歳の社長で確かめてください。
厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
社会保険に加入しないままだと、何が起きるのか

加入の義務があるのに手続きをしないまま会社を続けると、どうなるのか。脅すつもりはありませんが、事実として日本年金機構が公表している取り組みを並べておきます。
- 1
加入の勧奨・指導
年金事務所から加入を勧められ、自主的に手続きをしない事業所には、職員による重点的な加入指導が行われる。 - 2
立入検査
それでも手続きをしない事業所には、職員が立入検査を行い、被保険者の資格の有無の事実を確認する。 - 3
職員の認定による加入
必要に応じて職員の認定による加入手続きが行われる。届出が適正でない場合は、確認した事実に基づき遡って手続きされることがある。
遡って加入となれば、その期間の保険料をまとめて納めることになります。社長1人の会社では、会社負担分と本人負担分のどちらも結局は自分の会社のお金です。会社設立の直後に資金を薄く使っていると、まとまった納付が重くのしかかります。
また、日本年金機構は、厚生年金保険・健康保険の適用事業所の情報を誰でも検索できるシステムを公開しています。会社設立をしたのに社会保険の手続きをしていなければ、その会社は検索しても出てこない、ということになります。
見落としやすいのが、国民健康保険の側の手続きです。会社の社会保険に加入しても、国民健康保険の脱退は自動では行われません。世田谷区の案内では、職場の健康保険に加入したときは14日以内に届け出るよう求めていて、遅れると国民健康保険料の請求が続き、督促状が届くこともあると書かれています。社会保険への加入と国民健康保険の脱退は、ひと続きの作業として考えておきましょう。
反対に、加入していれば、病気やけがで働けなくなったときの傷病手当金など、国民健康保険にはない給付の対象になります。加入しないことの影響と、遡る期間の考え方は社会保険に入らない・未加入のリスクで、手続きが遅れた場合は5日を過ぎた・遅れたときで整理しています。
厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取り組み|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
まとめ:社長1人の会社の社会保険は、報酬と年齢で当てはめる

社長1人の会社と社会保険の関係を、もう一度短くまとめます。法人を設立して役員報酬を払うなら、従業員がいなくても健康保険と厚生年金保険に加入するのが原則です。役員報酬がゼロで、ほかに報酬を受ける人もいなければ、会社は適用事業所の要件を満たしません。70歳以上の社長は厚生年金保険には加入せず、健康保険だけに加入します。

加入すると決まったら、新規適用届と被保険者資格取得届を、事実が生じた日から5日以内に出します。様式・添付書類・提出方法の詳しい書き方は、このサイトでは扱わず、「会社設立後の手続き」のテーマに委ねます。毎月の保険料がいくらになるかは、トップページの階段グラフで役員報酬の月額ごとに確かめられます。たとえば東京都・協会けんぽ・令和8年度で標準報酬月額が20万円なら、40歳未満の本人負担は健康保険料9,850円・子ども・子育て支援金230円・厚生年金保険料18,300円で、合わせて月28,380円です(40〜64歳は介護保険料1,620円が加わります)。
会社員を続けながら会社設立をする人や、家族を役員にする人は、判定がもう一段複雑になります。会社員・在職中・副業で会社設立と家族・妻を役員にする場合もあわせて確かめてください。従業員を雇う予定があるなら従業員・パートの加入条件が次の入口です。
新規適用の手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
ひとり社長の会社設立は、決めることが一度に押し寄せてきます。社会保険はそのなかでも「入るか入らないか」を自分で選べるものではなく、法人と報酬と年齢で答えが決まる制度です。だからこそ、自分の条件を一度表に当てはめてしまえば、迷う時間はぐっと減ります。判断に迷う事情があるときは、管轄の年金事務所か社会保険労務士に、この記事の条件の表を見せながら相談してみてください。
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