会社設立後の社会保険と労働保険の違い|誰が加入し、保険料を誰が払い、何を守るのかを比べる
この記事の目次(8項目)
会社をつくったばかりで、これから初めて人を雇おうとしている社長に向けた記事です。「社会保険」と「労働保険」の言葉が混ざって、何に加入すればいいのか、どこまでが会社の負担なのかが整理できていない方が、自分の会社の人の構成を当てはめて違いをつかめるように書いています。
社会保険と労働保険は別の制度:最初に言葉をそろえる

会社設立をすると「社会保険に入らなければ」「労働保険の手続きも」と、似た言葉が一度に押し寄せます。このサイトでは、社会保険=健康保険と厚生年金保険(40〜64歳の人は介護保険を含む)、労働保険=労災保険と雇用保険と分けて使います。世の中には労働保険まで含めて広く「社会保険」と呼ぶ説明もありますが、ここでは混ぜません。
厚生労働省は、労働保険を「労災保険及び雇用保険の総称で政府が管掌する強制保険」と説明しています。一方の社会保険は、日本年金機構と協会けんぽ(または健康保険組合)が運営の窓口になります。同じ「保険」でも、加入する人の決まり方、保険料の払い方、届け出る役所がすべて違うので、別々の制度として頭に入れておくのが近道です。

この区別が会社設立の直後に大事になるのは、社長1人で始めた会社でも、最初の従業員を迎えた瞬間に労働保険が加わり、保険料も届出も一気に増えるからです。どちらの制度の話をしているのかを意識しないまま進めると、「社会保険には入ったから労働保険も済んでいるはず」といった思い込みが生まれやすくなります。
ここがポイント
社会保険は「社長も入る保険」、労働保険は「雇われて働く人のための保険」と覚えると、会社設立直後の判断がぐっと楽になります。
労働保険とはどのような保険ですか。また、労働保険に入るにはどうしたらよいのですか|厚生労働省厚生労働省/確認日 2026年10月11日
誰が加入するか:社会保険は社長1人でも、労働保険は労働者を雇ってから

2つの制度のいちばん大きな違いは、加入の起点です。社会保険は、法人の事業所であれば事業主のみの場合を含めて加入が義務づけられています。役員報酬を受ける社長は被保険者(保険料を負担し給付を受ける加入者本人)になるので、会社設立をして社長が報酬を受け取った時点で、会社は社会保険の適用事業所(加入が法律で義務づけられた事業所)になります。
労働保険は、原則として1名以上の労働者を使用する事業が適用事業です。社長は雇われている「労働者」ではないので、社長しかいない会社では、労災保険も雇用保険も原則として出番がありません。初めてパートやアルバイトを1人雇った日に、労働保険の保険関係が法律上当然に成立します。
言い換えると、社会保険は会社設立をした時点から社長自身の問題として始まり、労働保険は人を雇った時点から会社と従業員の問題として始まります。社長1人の会社が労働保険料を払う場面は、原則としてありません。
| 会社の人の構成 | 社会保険 | 労働保険 |
|---|---|---|
| 社長1人(役員報酬あり) | 加入(社長が被保険者) | 原則として対象外 |
| 社長1人(役員報酬なし) | 適用事業所にならない | 原則として対象外 |
| 社長+パート1人 | 社長は加入。パートは条件しだい | 労災保険は成立。雇用保険はパートの条件しだい |
| 社長+正社員1人 | 社長・正社員とも加入 | 労災保険・雇用保険とも成立 |
役員報酬をゼロにしている社長1人の会社は、社会保険の適用事業所の要件も満たしません。その場合の健康保険と年金の手当ては役員報酬なし・報酬ゼロのときで、報酬がある場合の加入義務は社長1人の会社の加入義務で確かめてください。
事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
従業員ごとの加入条件も、社会保険と労働保険で違う

人を雇ったあとも、従業員1人ごとに加入の線が別々に引かれます。社会保険は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上であれば被保険者になります。4分の3に届かない人は、勤め先が一定の規模以上なら、週20時間以上で学生でないことなどを条件に加入対象になります。
4分の3基準は「時間」と「日数」の両方で判定する点に注意が必要です。日本年金機構は、1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がともに常時雇用者の4分の3以上であることを基準として示しています。正社員が週40時間・月20日勤務の会社なら、週30時間以上かつ月15日以上が目安になります。週32時間でも月14日しか働かない契約なら、日数の側で4分の3に届きません。
雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上で、同じ事業主に31日以上雇われる見込みがあれば、原則として被保険者です。労災保険はさらに広く、常用・日雇・パート・アルバイトといった名称や雇用形態にかかわらず、賃金を受けて働くすべての労働者が対象です。

パートの社会保険の加入条件は、2026年10月の賃金要件の撤廃や、令和9年10月から始まる企業規模要件の段階的な引き下げで動いている最中です。条件を表で当てはめる方法は従業員・パートの加入条件で詳しく扱っています。
適用事業所と被保険者|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
保険料の違い:社会保険は折半、労災保険は会社だけ

社会保険料は、健康保険料や厚生年金保険料などの総称で、標準報酬月額(毎月の報酬を幅で区切った計算用の金額)に料率を掛けて決まります。原則として会社と本人が半分ずつ負担し、会社が毎月、翌月末までにまとめて納めます。
労働保険料は、労働者に払う賃金総額に、労災保険率と雇用保険率を掛けて計算します。厚生労働省の説明では、労災保険分は全額事業主負担、雇用保険分は事業主と労働者の双方で負担します。令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で労働者負担が1,000分の5、事業主負担が1,000分の8.5、合わせて1,000分の13.5です。
| 比べる点 | 社会保険 | 労働保険 |
|---|---|---|
| 計算の元 | 標準報酬月額・標準賞与額 | 実際に払った賃金の総額 |
| 負担の分け方 | 会社と本人で折半(拠出金は会社だけ) | 労災は会社だけ、雇用保険は会社と本人 |
| 納め方 | 毎月、翌月末までに納付 | 年度当初に概算で納め、翌年度に精算(年度更新) |
| 社長の分 | 役員報酬を元にかかる | 社長は原則対象外なのでかからない |
たとえば月給12万円のパートが雇用保険に加入する場合、令和8年度の一般の事業なら、本人負担は12万円×1,000分の5=600円、会社負担は12万円×1,000分の8.5=1,020円です。これに労災保険料が会社だけの負担で加わります。労災保険率は事業の種類で大きく違うので、自社の業種の率を確かめてください。
労働保険の年度更新は、原則として例年6月1日から7月10日までに、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料をまとめて申告・納付する手続きです。社会保険の保険料の具体的な計算は社会保険料はいくら?計算、会社と本人の分け方は会社負担と本人負担で確かめられます。
労働保険料の申告・納付|厚生労働省厚生労働省/確認日 2026年10月11日
補償の範囲の違い:仕事中のけがは健康保険ではなく労災保険

2つの制度は、守る場面もはっきり分かれています。健康保険法第1条は、健康保険を「労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産」に給付する制度だと定めています。被扶養者とは、被保険者に生計を維持されていて、自分で保険料を払わずに健康保険を使える家族のことです。
つまり、従業員が仕事中や通勤中にけがをしたときは、健康保険ではなく労災保険の出番です。逆に休日のけがや私生活での病気は健康保険で対応します。厚生年金保険は老後・障害・遺族の年金、雇用保険は失業したときなどの給付と、それぞれ受け持ちが違います。
社会保険が受け持つ場面
私生活の病気・けがの医療費、出産、病気で休んだときの所得の補てん、老後・障害・遺族の年金。
労働保険が受け持つ場面
仕事中・通勤中のけがや病気の補償、失業したときの給付、育児や介護で休業したときの給付など。
従業員がけがをしたとき、それが仕事中のものなのか私生活のものなのか、判断に迷う場面もあります。その場合は自己判断で健康保険を使わず、労働基準監督署に相談してから進めるのが確実です。どちらの制度で扱うかによって、会社の手続きも本人の負担も変わるからです。
特に見落としやすいのが、会社設立直後の社長自身のけがです。社長は労災保険の「労働者」に当たらないので、原則として労災保険の補償を受けられません。社長や役員を労災保険でカバーする特別加入の仕組みについては、社長・役員・家族と労働保険で扱っています。
健康保険法 第1条(目的)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
窓口と届出の違い:年金事務所と、労働基準監督署・ハローワーク

届け出る先も異なります。社会保険は年金事務所が窓口で、協会けんぽの健康保険の適用の事務もあわせて年金事務所が扱います。労働保険は、保険関係成立届を労働基準監督署または公共職業安定所(ハローワーク)に出し、雇用保険の被保険者の届出はハローワークに出す、という形で窓口が分かれます。
期限も違い、社会保険の新規適用届は事実発生から5日以内、労働保険の保険関係成立届は保険関係が成立した日から10日以内とされています。様式や添付書類、提出方法の具体的な手順は、このサイトでは扱いません。「会社設立後の手続き」のテーマで確かめてください。

書類の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務です。自分で進めるか専門家に頼むかの判断材料は手続きは自分で?社労士に頼む?にまとめています。
労働保険の成立手続|厚生労働省厚生労働省/確認日 2026年10月11日
会社設立直後によくある4つのケースで当てはめる

最後に、会社設立直後によくある構成で、社会保険と労働保険の組み合わせを確かめます。どれも、社長は役員報酬を受けていて、正社員の所定労働時間は週40時間という前提です。
- ケース1:45歳の社長1人で、役員報酬は月30万円
- 社会保険は社長が加入し、40歳以上なので介護保険料も負担します。労働者がいないので、労働保険は原則として成立しません。
- ケース2:社長と、役員になった配偶者の2人
- 配偶者も報酬を受けていれば社会保険に加入します。2人とも役員なので、労働保険は原則として対象外です。家族を役員にするときの考え方は家族・妻を役員にする場合で扱っています。
- ケース3:社長と、週25時間のパート1人
- 社長は社会保険に加入。パートは4分の3に届かず、会社も規模要件を満たさないので社会保険には入りません。労災保険の対象になり、週20時間以上なので雇用保険にも加入します。
- ケース4:社長と、週40時間の正社員1人
- 社長も正社員も社会保険に加入。正社員は労災保険・雇用保険の対象にもなり、労働保険の保険関係が成立します。
- ケース5:社長と、週15時間の学生アルバイト1人
- アルバイトは社会保険に入らず、週20時間に届かないので雇用保険にも加入しません。それでも労災保険は雇用形態にかかわらず対象になるので、労働保険の保険関係は成立します。
ケース3のように、同じ1人の従業員でも「社会保険は対象外、労働保険は対象」ということは珍しくありません。反対に、社長しかいない会社では「社会保険は対象、労働保険は対象外」になります。2つの制度を別々に判定する、という感覚を持っておくと、加入漏れや思い込みを防げます。会社設立のときに一度だけ確かめれば済む話ではなく、人を雇うたび、働き方を変えるたびに当てはめ直すものだと考えてください。
雇用保険制度の概要|ハローワークインターネットサービス(厚生労働省)厚生労働省(ハローワーク)/確認日 2026年10月11日
まとめ:社会保険と労働保険の違いは「誰が・何を・どこへ」

会社設立後の社会保険と労働保険の違いを、3つの軸で振り返ります。社会保険は社長1人でも役員報酬があれば加入し、保険料は会社と本人の折半で毎月納めます。労働保険は労働者を雇ったときに成立し、労災保険は会社だけの負担、雇用保険は労使で負担して、年度更新で精算します。
- 1誰が
社会保険は社長・役員・条件を満たす従業員。労働保険は雇われて働く人 - 2何を
社会保険は私生活の病気と年金。労働保険は仕事中のけがと失業など - 3どこへ
社会保険は年金事務所。労働保険は労働基準監督署とハローワーク - 4いくら
社会保険は標準報酬月額×料率を折半。雇用保険は令和8年度・一般の事業で本人1,000分の5
設立から時間がたつと、従業員の数や働き方が少しずつ変わっていきます。週の所定労働時間を延ばした、学生アルバイトが卒業してそのまま勤め続けることになった、といった変化があるたびに、社会保険と労働保険のどちらの線を越えたのかを確かめ直すことが大切です。
社長1人で会社をつくったばかりの段階では、社会保険の加入から確かめるのが順番です。人を雇う予定ができたら、労働保険の成立と、従業員ごとの加入条件をあわせて確かめてください。
健康保険(協会けんぽ)の事務と手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
最後に、読んでくださったあなたへ
社会保険と労働保険は、名前が似ているせいで一緒に考えてしまいがちですが、加入する人も、保険料の払い方も、窓口も違う別の制度です。会社設立直後は社会保険だけ、人を雇ったら労働保険も、という順番で整理すれば、迷う場面はかなり減ります。初めて従業員を迎える前に、この記事の表に自社の人の構成を当てはめ、分からないところは年金事務所や労働基準監督署、ハローワーク、社会保険労務士に確かめてください。
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