会社設立の社会保険と役員報酬:標準報酬月額の等級・報酬なしの扱い・保険料の見方
この記事の目次(9項目)
この記事は、会社をつくる、またはつくったばかりで、自分や家族に払う役員報酬と社会保険の関係をひと通り押さえたい方に向けています。報酬をいくらにすれば保険料がどう動くのか、報酬を出さない期間は社会保険に入れるのか、といった疑問を、制度の原文と額表を使って一枚の地図にまとめました。報酬額の決め方そのものは扱いません。
役員報酬があれば社会保険に加入、なければ入れない:先に全体像

会社設立のあとの社会保険は、「社長が誰か」よりも「役員報酬が払われているか」で道が分かれます。日本年金機構が公開している疑義照会の回答には、法人の役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている人は、法人に使用される者として被保険者になる、という昭和24年の通知の考え方が載っています。逆に言えば、報酬を受けていない役員は、この理屈の上では被保険者になりません。
ここでいう社会保険は、健康保険と厚生年金保険のこと(40〜64歳は介護保険を含む)です。労災保険と雇用保険は労働保険といい、別の制度です。被保険者は保険に加入している本人、適用事業所は社会保険の加入が義務づけられた事業所を指します。このあとの節で、役員報酬による枝分かれを順にたどります。
| 状況 | 社会保険への加入 | 社長の健康保険・年金 |
|---|---|---|
| 社長1人・役員報酬あり | 加入する(法人は事業主のみでも適用) | 会社の健康保険・厚生年金保険 |
| 社長1人・役員報酬ゼロ | 会社は適用事業所の要件を満たさない | 国民健康保険(または任意継続)・国民年金 |
| 報酬ゼロの役員+報酬を受ける従業員 | 従業員が被保険者になり、会社は適用事業所になる | 報酬ゼロの役員は原則として対象外 |
各節の詳しい中身は、子記事に分けてあります。等級の読み方は役員報酬は標準報酬月額のどの等級になるか、報酬ゼロの間の過ごし方は役員報酬ゼロで会社設立したらどうなるかで扱っています。このページは、その入口として全体をつなぐ役目です。
ここがポイント
加入するかどうかの分かれ目は、報酬を実際に受けているか。額の大小ではなく、まず有無で判定します。
疑義照会回答(厚生年金保険 適用)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
標準報酬月額とは:役員報酬を等級に置き換えた保険料計算用の月額

標準報酬月額は、毎月の報酬を一定の幅ごとに区切り、区切りごとに決めた「保険料計算用の月給」のことです。役員報酬が月30万円なら、そのままの30万円ではなく、額表の「報酬月額29万円以上31万円未満」の行に当てはまり、標準報酬月額30万円として保険料が計算されます。実際の報酬が29万5,000円でも、30万5,000円でも、同じ行に入る限り保険料は変わりません。
等級の数え方は健康保険と厚生年金保険で少し違います。日本年金機構によると、厚生年金保険の標準報酬月額は1等級の8万8,000円から32等級の65万円までの32等級です。健康保険のほうは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の東京支部の額表で、1等級の5万8,000円から50等級の139万円まで続いています。つまり、報酬が低いほうでは厚生年金保険の下限が8万8,000円で止まり、高いほうでは65万円で止まります。
| 役員報酬(月額) | 健康保険の等級 | 厚生年金保険の等級 | 標準報酬月額 |
|---|---|---|---|
| 9万円 | 4等級 | 1等級 | 8万8,000円 |
| 15万円 | 12等級 | 9等級 | 15万円 |
| 20万円 | 17等級 | 14等級 | 20万円 |
| 30万円 | 22等級 | 19等級 | 30万円 |
| 41万円 | 27等級 | 24等級 | 41万円 |
| 65万円 | 35等級 | 32等級 | 65万円 |
表の等級が二通りあるのは、健康保険の等級の中に、厚生年金保険にはない低い等級(1〜3等級)があるためです。額表には健康保険の等級の横に、厚生年金保険の等級が括弧書きで併記されています。自分の報酬がどの行に入るのかを、一度は額表の原文で目を通しておくと、後の節の数字が読みやすくなります。等級の読み方をケースごとに追う記事は標準報酬月額の等級の読み方にまとめました。
注意
保険料額表は都道府県ごと・年度ごとに違います。この記事の数字は、令和8年度(令和8年3月分から)の協会けんぽ・東京支部の額表のものです。本店の所在地が東京都以外の場合は、各支部の額表で確かめてください。
厚生年金保険の保険料|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
役員報酬ごとの社会保険料:月額の目安を東京都の額表で

ここで、会社設立から半年の35歳の社長(本店は東京都)を例に、役員報酬の月額ごとの保険料を並べます。前提は、令和8年度(令和8年3月分から)・協会けんぽ・40歳未満で、介護保険料はかかりません。健康保険料率は9.85%、子ども・子育て支援金率は0.23%(令和8年4月分から)、厚生年金保険料率は18.300%で、いずれも労使で半分ずつ負担します。

たとえば役員報酬が月30万円なら、本人負担は健康保険料14,775円、子ども・子育て支援金345円、厚生年金保険料27,450円で、合計42,570円です。会社はこれと同額を負担するので、社長1人の会社だと、社会保険料として月に約8万5,000円が出ていくことになります。さらに子ども・子育て拠出金(率0.36%)は事業主だけが負担する別制度で、標準報酬月額30万円なら月1,080円が加わります。
40歳から64歳の社長は、これに介護保険料がのります。東京都・令和8年度の率1.62%の折半額で、標準報酬月額30万円なら本人負担が月2,430円です。報酬20万円なら1,620円、41万円なら3,321円、65万円なら5,265円と、等級に比例して増えます。年齢をまたぐ月の細かな扱いや、都道府県による違いは、社会保険料はいくらかを扱うカテゴリーで整理しています。
注意
給与から本人負担を控除する場合、円未満の端数は50銭以下で切り捨て、50銭を超えると切り上げです。事業主と被保険者の間で特約があれば、それに従えます(額表の注記より)。
令和8年度保険料額表(東京支部)PDF|協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)/確認日 2026年10月23日
役員報酬なし・報酬ゼロの会社設立:入れない期間の健康保険と年金

設立直後は売上が立たず、しばらく役員報酬をゼロにする人もいます。この場合を、日本年金機構は新規加入に必要な書類の一覧のなかで次のように書いています(2026年10月23日に原文を再確認)。
つまり、役員が社長1人で報酬がゼロなら、その会社は適用事業所になりません。社長は会社の社会保険に入れず、国民健康保険(退職直後なら任意継続という手もあります)と国民年金で過ごします。国民年金の保険料は、令和8年度で月17,920円です。会社員だった人が会社設立で独立した場合、退職日の翌日から国民年金の第1号被保険者になり、14日以内に届け出る決まりがあります。

報酬が出ていても、実態が伴わない場合は別の判断になります。厚生労働省が公開した資料には、役員の被保険者資格を、その業務が経営に参画する経常的な労務の提供か、報酬がその対価として経常的に払われているか、という2点を実態から総合的に判断すると書かれています。会議で求めに応じて意見を述べるにとどまる立場は、適用がないと判断する例として挙がっています。形だけ役員に据えて加入させる、という使い方は想定されていません。
報酬ゼロの期間の具体的な過ごし方、国保・任意継続の選び方、報酬ゼロから払い始めるまでの手順は、役員報酬ゼロの会社設立と社会保険に詳しく書きました。合同会社で報酬のない社員が混ざる場合は、加入を扱うカテゴリーの合同会社の記事が入口になります。
健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
報酬を払い始める月:国保・国民年金から社会保険への切り替え

報酬ゼロから報酬ありへ変わる月は、会社設立後の一年のなかでも、とくに手続きが重なる月です。厚生年金保険法も健康保険法も、被保険者の資格は「適用事業所に使用されるに至った日」または「事業所が適用事業所となった日」に取得すると書いています。報酬が出て、会社が適用事業所の要件を満たした日が加入日になる、という読み方です。
社会保険への加入と同時に、これまで使っていた制度から抜ける作業が出てきます。国民健康保険の脱退は自動では行われず、世田谷区の案内では職場の健康保険に加入したら14日以内に届け出るよう求めています。国民年金のほうは、厚生年金保険の加入手続きが勤務先で行われると、国民年金の資格には自動的に反映される、と横浜市が案内しています。任意継続を使っていた社長は、任意継続の資格喪失の申出が別に要ります。

社会保険料は月単位で、加入した月の分から数えます。月の途中で報酬を払い始めた場合も、その月から保険料がかかる点に注意してください。国民健康保険のほうは、社会保険に加入した月からかからなくなるのが原則で、同じ月に二重で払う形にはなりません。切り替え月の数え方は、報酬ゼロから役員報酬を出す月の切り替えに月別の例を置いています。
届出の書き方については、このサイトでは1〜2文にとどめます。提出先・期限・様式・添付書類・提出方法の5点セットは、「会社設立後の手続き」のテーマのテーマで確かめてください。年金事務所の窓口や電子申請の入口は、手続きを扱うカテゴリーにまとめてあります。書類の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務であり、当サイトでは行っていません。
健康保険法 第35条(資格取得の時期)|e-Gov法令検索デジタル庁 e-Gov/確認日 2026年10月23日
等級の境目と上限:報酬が1万円違うだけで保険料が一段動くとき

標準報酬月額は階段状なので、報酬のわずかな差が一段分の保険料差になる場所があります。東京都・令和8年度の額表では、報酬月額290,000円以上310,000円未満が標準報酬月額30万円、310,000円以上330,000円未満が32万円です。月の報酬を30万9,000円にするか31万円にするか、という差が、等級を一段押し上げます。
| 役員報酬(月額) | 標準報酬月額 | 本人負担の合計(40歳未満) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 30.9万円 | 30万円 | 42,570円 | ― |
| 31万円 | 32万円 | 45,408円 | +2,838円 |
報酬は1,000円しか違わないのに、本人負担は月2,838円、会社負担もあわせると月5,676円の差になります。もちろん、保険料が上がれば将来の厚生年金額にも反映されるので、一概に損とも得とも言えません。この記事では、保険料を減らすための形だけの報酬設定を勧めることはしません。等級の幅は一定ではなく、1.5万円から6万円まで広がったり狭まったりしています。数字を並べた早見は標準報酬月額の境目と上限の記事で確かめられます。
上限と下限にも決まりがあります。厚生年金保険の標準報酬月額は65万円が上限で、報酬が100万円でも65万円で計算されます。一方、健康保険は協会けんぽ東京支部の額表で139万円(50等級)まで続くので、高い報酬の社長は、健康保険料のほうだけ上がり続けることになります。
注意
厚生労働省の令和7年年金制度改正の概要では、厚生年金保険等の標準報酬月額の上限は、令和9年(2027年)9月に68万円、令和10年9月に71万円、令和11年9月に75万円へ段階的に引き上げられます。いまの上限65万円は令和8年度の数字です。
厚生年金保険料額表(令和8年度版)PDF|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
決めた等級はいつ見直される?算定基礎・月額変更・賞与の保険料

報酬を払い始めて加入したとき、最初に決まった標準報酬月額は、資格を取得した月からその年の8月まで使われます。6月1日から12月31日の間に取得した場合は、翌年の8月までです。そのあとは、毎年の算定基礎届で決め直されます。事業主は7月1日現在の全被保険者について、4月・5月・6月の3か月間の報酬月額を届け出て、新しい標準報酬月額は9月から翌年8月まで適用されます。
報酬を大きく変えたときの仕組みもあります。固定的賃金が変わり、変動月から引き続く3か月の報酬の平均で出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額の間に2等級以上の差が生じたときは、報酬が変わった月から数えて4か月目から標準報酬月額が改定されます。1等級しか動かない変更では随時改定の対象にならず、次の算定基礎届まで等級は変わりません。
- 1資格取得時
払い始める報酬の見込みで最初の等級が決まる。翌年8月まで使われる場合がある。 - 2毎年9月
4〜6月の報酬の平均で等級を決め直す(算定基礎届)。 - 3報酬を大きく変えたとき
2等級以上の差が出れば、変更から4か月目に改定(月額変更届)。 - 4賞与を払ったとき
標準賞与額(1,000円未満切り捨て)に料率を掛けて保険料を計算。
賞与にも社会保険料がかかります。賞与額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額が保険料の基になり、厚生年金保険は1回150万円、健康保険は年度の累計573万円が上限です。役員に賞与を出す場合の税務上の扱いは、このサイトでは触れません。保険料が賞与の月にどう動くかは、支払いを扱うカテゴリーの算定基礎と月額変更の記事が入口になります。
定時決定(算定基礎届)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
役員報酬を決める前に、社会保険の面から見ておくこと

役員報酬をいくらにするか、どの時期に改定するかといった決め方は、法人税の損金算入のルールなどと結びつく別のテーマです。このサイトでは、「節税・会社員の会社設立」のテーマに委ね、社会保険の面から確かめておきたい点だけを置いておきます。

2社以上から役員報酬を受けるときは、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した額で標準報酬月額が決まります。選択した年金事務所へ、事実発生から10日以内に二以上事業所勤務の届出も必要です。会社員を続けながら会社設立をする人や、別の会社の役員を兼ねる人は、加入を扱うカテゴリーの二以上事業所の記事で按分の例を見てください。
家族を役員にする場合も、同じ考え方で判断します。家族が法人から労務の対償として報酬を受け、経営に参画する実態があるなら被保険者になりますし、扶養の範囲に収まるように額だけをそろえる、という発想で報酬を決めるのはおすすめしません。会社設立の段階で決める報酬の水準は、事業の資金計画と、将来の年金額まで含めて考えるものです。不安があれば、社会保険労務士や管轄の年金事務所に事情を説明して確かめてください。
複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
まとめ:役員報酬と社会保険は、有無・等級・時期の3点で見る

会社設立後の社会保険と役員報酬の関係を、3点に絞って振り返ります。1つ目は有無です。報酬を受ける役員は被保険者になり、無報酬の役員しかいない法人は適用事業所の要件を満たしません。2つ目は等級です。報酬は標準報酬月額という段に置き換わり、令和8年度の東京都なら、月30万円の社長の本人負担は合計で月42,570円になります(40歳未満)。3つ目は時期です。報酬を払い始める月に、加入と脱退の手続きがそろい、その後は毎年9月と、大きな報酬の変更のときに等級が見直されます。
| 確かめたいこと | 見る場所 | この記事の節 |
|---|---|---|
| 報酬ゼロでも加入できるか | 日本年金機構の書類一覧 | 第4節 |
| 自分の報酬の等級と保険料 | 協会けんぽの都道府県別の額表 | 第2・3節 |
| 払い始める月の手続き | 年金事務所・市区町村 | 第5節 |
| 境目・上限・見直し | 額表・日本年金機構の算定基礎の案内 | 第6・7節 |
報酬ゼロの期間から払い始める月までの一連の流れは、入らない・入ってないときのカテゴリーともつながっています。年金の側の話、とくに70歳以降や在職老齢年金は、年金を扱うカテゴリーで整理しました。保険料の全体像はいくらを扱うカテゴリーに戻って確かめられます。
全国の相談・手続き窓口|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月23日
役員報酬は、会社をつくる人が最初に決める数字のひとつです。社会保険の側から見ると、その数字は等級という段に置き換わり、会社と自分の両方の負担になって毎月返ってきます。額表を一度開いて、自分の報酬がどの行に入るのかを見てみてください。迷う点があれば、この記事の表を手元に、管轄の年金事務所や社会保険労務士に相談すると話が早く進みます。