社会保険に未加入の会社設立後の期間、社長・家族・従業員の側で起きること|あとで加入したときの精算まで
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会社設立後、社会保険に加入しないまま一定の期間がたってしまった会社の社長と、その会社で働く従業員・家族に向けた記事です。会社が受ける指導や罰則の話ではなく、未加入の期間に一人ひとりの保険と年金がどうなっていて、あとで加入したときに何を精算することになるのかを知りたい方に向けています。
未加入の影響は、会社の帳簿の外にも出る

社会保険の未加入というと、年金事務所の指導や、さかのぼって納める保険料といった「会社の問題」が先に語られがちです。それについては会社設立後に社会保険へ入らないとどうなる?で条文と日本年金機構の説明を確かめました。この記事では視点を変えて、未加入の期間に社長本人、その家族、従業員の側で何が起きているのかを見ていきます。
以下で社会保険と呼ぶのは健康保険と厚生年金保険で、介護保険は40歳以上65歳未満の人だけに関わります。日本年金機構のQ&Aは、法人登記されている事業所で常時従業員を使用している場合は厚生年金保険の適用事業所となり、事業主には社会保険に加入する義務があると答えています。同じQ&Aは、加入すべき事業所なのに加入していない、従業員を加入させていない等の相談があれば年金事務所に連絡するよう呼びかけています。働く側からの相談も想定されている、ということです。
例として、50歳・東京都の社長が会社設立をして2年目、役員報酬を月35万円受け取り、従業員1人(28歳・月給22万円)を雇っているのに、会社の社会保険にはまだ加入していない、という状況を置いて考えます。社長は国民健康保険と国民年金、従業員も自分で国保と国民年金に入っている前提です。会社設立の前に会社員だった社長なら、会社設立を境に厚生年金から国民年金に変わり、そのまま2年近くたっている、という状況です。
法人の事業所は、すべて厚生年金保険の適用事業所となるはずですが、私の周囲に未加入の事業所を見かけます。加入する義務があるのではないですか。|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
社長本人の年金:厚生年金の被保険者期間にならない

会社が未加入の間、社長は厚生年金保険の被保険者になっていません。厚生年金保険法19条では、被保険者期間は月単位で、資格を得た月から資格を失った月の前の月までを数えます。資格を得ていない月は、厚生年金の被保険者期間には数えられません。その間、社長は国民年金の第1号被保険者として、自分で国民年金保険料を納めていることになります。
将来の年金は、厚生年金の被保険者期間と、その間の標準報酬月額をもとに計算されます。標準報酬月額とは、報酬を一定の幅で区切った、保険料と年金額の計算に使う金額のことです。未加入のままの月は、どれだけ役員報酬を受け取っていても、厚生年金の上乗せにつながりません。会社員時代に積み上げた厚生年金の記録は、会社設立の前月あたりで止まったままになります。
あとからさかのぼって加入した場合に、どの月までが被保険者期間として記録されるかは、届出の内容と保険料の時効(2年)の関係で決まります。具体的な月数は、年金事務所に記録を見てもらうのがいちばん早い方法です。厚生年金と社長の関係は厚生年金と社長・70歳でも扱っています。
厚生年金保険法 第19条(被保険者期間)|e-Gov法令検索デジタル庁 e-Gov/確認日 2026年10月11日
健康保険の給付:傷病手当金という差

健康保険の面でも、会社設立後の未加入の間に手放しているものがあります。わかりやすいのが傷病手当金です。協会けんぽの説明では、業務外の病気やけがの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。
社長や従業員が国民健康保険に入っている場合はどうでしょうか。国民健康保険法58条は、傷病手当金を、市町村が条例で定めるところにより「行うことができる」給付としています。つまり国保では必ず支給されるものではなく、住んでいる市区町村の条例しだいです。50歳の社長が入院して1か月働けなくなったとき、会社の社会保険に加入していれば傷病手当金の対象になり得ますが、未加入で国保に入っているなら、その市区町村に制度があるかを確かめるところから始まります。従業員にとっても同じで、会社が加入していれば受けられたはずの給付を、未加入のために受けられないということが起こります。

傷病手当金|全国健康保険協会全国健康保険協会/確認日 2026年10月11日
家族:扶養と第3号被保険者の仕組みが使えない

社長の家族への影響は、主に扶養の場面に現れます。国民年金法7条は、第3号被保険者を「第二号被保険者の配偶者」で主としてその収入により生計を維持する20歳以上60歳未満の人、と定めています。第2号被保険者とは厚生年金保険の被保険者のことです。社長が厚生年金に加入していなければ、収入のない配偶者は第3号になれず、第1号として自分で国民年金保険料を納めることになります。
健康保険の被扶養者(被保険者に扶養されて、保険料の負担なしで健康保険に入る家族)も、社長が会社の健康保険の被保険者であることが前提です。会社が未加入なら、子どもや配偶者も、それぞれ国民健康保険に加入します。収入の線引きなどは家族を扶養に入れる条件のカテゴリーに詳しく書いています。
従業員の家族も同じです。28歳の従業員に配偶者と子どもがいれば、会社が加入していれば家族は被扶養者になれた可能性があります。未加入の会社では、その家族も国保に加入し、国保料を世帯で負担しています。社会保険の未加入は、会社設立をした社長が思っている以上に、周りの人の家計に影響しています。たとえば社長の配偶者が専業主婦(主夫)で40歳なら、第1号として毎月の国民年金保険料を自分で負担し、国保料も世帯でかかっています。会社設立前、社長が会社員だったころには負担していなかった支出です。
国民年金法 第7条(被保険者の資格)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
従業員:自分で資格の確認を請求できる

会社が届出をしていなくても、従業員が何もできないわけではありません。健康保険法51条は「被保険者又は被保険者であった者は、いつでも」資格の確認を請求できると定めています。厚生年金保険法31条にも同じ規定があります。資格の取得は、事業主の届出のほか、この請求や職権による確認でも効力を生じる仕組みです(健康保険法39条、厚生年金保険法18条)。
従業員が年金事務所に相談したり、確認を請求したりした結果、会社の未加入が明らかになる、という流れは条文上あり得るものです。日本年金機構の適用事業所検索システムも、個人が就職先や勤め先の加入状況を確認するためのものと説明されています。
社長の側から見ると、従業員を雇っている会社の未加入は、社長1人の会社のとき以上に、会社の外の人が関わる問題になります。会社設立の直後に人を雇った会社では、とくにこの点が重くなります。従業員の加入条件の全体は従業員・パートの加入条件で整理しています。
注意
このサイトは、従業員の方が会社とどう交渉するかについての助言は行っていません。具体的な相談は、年金事務所や社会保険労務士にしてください。
厚生年金保険法 第31条(確認の請求)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
あとで加入したときの精算①国保料と国民年金保険料

未加入に気づいて、会社がさかのぼって社会保険に加入した場合、社長や従業員が個人で払っていた国保料と国民年金保険料はどうなるのでしょうか。
国民年金については、横浜市の案内が参考になります。勤め先が厚生年金の手続きをすれば国民年金の記録も切り替わり、第1号でなくなった月からの国民年金保険料は不要になる。払い過ぎていた分は機構から知らせが来るので、それに沿って返してもらう、という内容です。
国保料のほうは、会社の健康保険に入った月からは発生せず、国保をやめる届けを出したときに差し引きされます。ただし、世田谷区は、国民健康保険法110条の2により保険料を変更できる期間が定められていて、脱退手続きが遅れてその期間を過ぎると、払い過ぎた保険料が戻らない場合があると書いています。さかのぼる期間が長いほど、戻らない部分が出てくる可能性があるということです。
条文を見ると、国民健康保険法110条の2は、保険料の賦課決定はその年度の最初の納期の翌日から2年を経過した日以後はできない、と定めています。一方で同条2項には、被保険者の責めに帰することのできない事由によって健康保険などとの適用関係の調整が必要だと分かった場合、保険料を減らす決定はその期間を過ぎても調整に必要な期間まではできる、という特例があります。会社の未加入が原因でさかのぼったケースにこれがどう当てはまるかは、市区町村の国保の窓口で確かめてください。

国民年金第1号被保険者の手続き|横浜市横浜市/確認日 2026年10月11日
あとで加入したときの精算②国保で受診した医療費

見落としやすいのが医療費です。とくに会社設立から時間がたってから加入した場合に問題になります。さかのぼって会社の健康保険に加入すると、その期間は本来、国保ではなく会社の健康保険の加入者だったことになります。その間に国保の資格確認書などで病院にかかっていた場合、国保が負担した分(7割など)の扱いを整理しなければなりません。
柏市の案内では、国保の資格を失ったあとに国保を使って受診した人には、市から医療費の返還請求の通知が送られ、返還した分は受診時に加入していた健康保険に請求できるとされています。そして、受診した日の翌日から2年以上たつと時効になり、健康保険に請求できなくなる、とも書かれています。
50歳の社長が未加入の期間に何度か通院していた場合、いったん国保に返還し、そのあと協会けんぽに請求するという二段階の手続きになります。一時的に立て替えが必要になることもあるので、加入の手続きを進める段階で、居住地の国保の窓口に流れを確認しておくと慌てずに済みます。手続きの詳細は自治体によって違います。
他の健康保険加入後に医療機関を受診したとき(医療費の返還請求)|柏市柏市/確認日 2026年10月11日
あとで加入したときの精算③従業員の本人負担分

最後は従業員の保険料です。会社設立後すぐに雇った従業員ほど、さかのぼる月数は長くなります。健康保険法161条は、保険料は被保険者と事業主が2分の1ずつ負担し、事業主が自分の分と従業員の分をあわせて納める義務を負うと定めています。過去の分を納めるときも、窓口になるのは会社です。
問題は、従業員の本人負担分をどう回収するかです。健康保険法167条は、事業主が報酬から控除できるのは「前月の標準報酬月額に係る保険料」(退職するときは前月とその月の分)としています。厚生年金保険法84条も同じです。何か月も前の分を、月々の給与で一度に回収できる、とは読めない書き方です。
このため、さかのぼった期間の本人負担分をどう精算するかは、従業員と話し合って決めることになります。28歳・月給22万円の従業員なら、令和8年度・東京都・協会けんぽの料率で、健康保険料(標準報酬月額22万円で10,835円)、子ども・子育て支援金253円、厚生年金保険料20,130円の合計31,218円が1か月の本人負担です。これが何か月分にもなると、従業員にとっても大きな額です。精算の方法は、社会保険労務士に相談しながら決めることをおすすめします。
| 項目 | 従業員が負担 | 会社が負担 |
|---|---|---|
| 協会けんぽの健康保険 9.85% | 10,835円 | 10,835円 |
| 支援金 0.23% | 253円 | 253円 |
| 厚生年金 18.300% | 20,130円 | 20,130円 |
| 拠出金 0.36% | なし | 792円 |
| 合計 | 31,218円 | 32,010円 |
健康保険法 第167条(保険料の源泉控除)|e-Gov法令検索デジタル庁 e-Gov/確認日 2026年10月11日
まとめ:未加入の期間は、人ごとに「失ったもの」と「精算するもの」がある

会社設立後に社会保険へ加入していない期間、社長は厚生年金の記録が積み上がらず、家族は扶養や第3号被保険者の仕組みを使えず、従業員は傷病手当金などの給付を受けられない状態にあります。あとから加入すると、国保料・国民年金保険料・医療費・従業員の本人負担分という4つの精算が必要になり、そのいくつかには期限があります。
- 社長未加入の月は厚生年金の被保険者期間にならない。加入後の記録の範囲は年金事務所で確認
- 家族配偶者は第3号になれず第1号。家族も国保に加入している
- 従業員資格の確認をいつでも請求できる。傷病手当金などの給付を受けられていない
- 精算国保料・国民年金保険料の還付、国保医療費の返還と請求、本人負担分の扱い
社会保険料の出し方は保険料の計算を扱うカテゴリーに、会社と従業員の持ち分は負担の分け方のカテゴリーにまとめています。精算の手順は人によって違うので、社会保険労務士や年金事務所に、未加入だった期間と、その間の家族・従業員の状況を伝えて相談してください。
社労士に相談する|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
最後に、読んでくださったあなたへ
社会保険に入っていない期間の影響は、会社設立をした社長本人よりも、家族や従業員の側に静かに積み重なっていきます。だからこそ、気づいた段階で「誰に、何が、どれだけ」起きているかを書き出してみてください。精算には時効や変更期限があるものも含まれます。ひとりで抱え込まず、年金事務所や社会保険労務士に、家族構成と従業員の人数を伝えて早めに相談することをおすすめします。
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