社長1人の会社設立、社会保険の加入義務を5人のケースで当てはめる|設立前に決める3つのこと
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これから会社設立をする予定で、社長は自分1人、まだ役員報酬の額や開始時期を決めていない方に向けた記事です。原則の説明はひととおり読んだけれど、自分の場合に本当に加入義務があるのか、年齢や働き方の事情が当てはまるのかを確かめたい、という方が、近い人物のケースを選んで読めるように組み立てました。
当てはめに使う物差しは「法人・役員報酬・年齢」の3つ

社長1人の会社が社会保険に加入する義務を負うかどうかは、人によって答えが違います。違いを生むのは、会社が法人かどうか、社長が役員報酬を受けるかどうか、そして社長の年齢の3つです。この記事では、この3つの物差しを5人の具体的な人物に当てはめて、加入するかしないか、何に加入するかを確かめていきます。
保障の名前を先に分けます。健康保険で医療を、厚生年金で老後などを支える仕組みを、この記事では社会保険として扱います。40〜64歳には介護保険の負担も加わります。労災と雇用保険を合わせた労働保険は別に確認します。制度の適用を受ける事業所を適用事業所と呼び、その事業所で本人として保険に入る人が被保険者です。

従業員の採用がまだでも、法人で働く社長の加入は確認が必要です。経営の仕事を継続して担い、その対価を会社から受けるという実態を、報酬の有無と併せて見ます。一般的な説明は一人社長の加入義務の基本に譲り、以下では人物ごとに変わる条件を確かめます。
- 株式会社と合同会社で、加入義務に違いはありますか?
- どちらも法人なので、3つの物差しの当てはめ方は同じです。合同会社の代表社員も、法人から報酬を受けていれば被保険者になります。
- 個人事業のまま続ける場合はどうなりますか?
- 個人事業主本人は被保険者になりません。従業員の人数などで事業所が適用になるかが決まる、別のルールです。
事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
ケース1:会社員を辞めて株式会社を設立、報酬月25万円の35歳

35歳のJさんは、東京都で会社員として働いたあと退職し、1人で株式会社を設立しました。設立した月から役員報酬を月25万円払う予定で、従業員を雇う予定はありません。
3つの物差しに当てはめると、法人である、役員報酬を受ける、70歳未満、のすべてに当てはまります。Jさんの会社は設立と同時に社会保険の適用事業所になり、Jさん自身が健康保険と厚生年金保険の被保険者として加入します。従業員がいないことは、加入義務の有無に影響しません。
保険料も見ておきます。報酬月額25万円は、標準報酬月額(毎月の報酬を幅で区切った、保険料計算用の月額)26万円の等級(25万円以上27万円未満)に当たります。令和8年度・東京都・協会けんぽ・35歳(介護保険料なし)の前提で、本人負担は健康保険料12,805円・子ども・子育て支援金299円・厚生年金保険料23,790円の合計36,894円です。会社負担は同じ額に子ども・子育て拠出金936円を加えた37,830円です。
Jさんの場合、会社負担と本人負担を合わせると月74,724円が会社の口座から年金事務所へ納められます。会社員時代は給与明細の本人負担分しか目にしていなかった人ほど、会社設立後にこの合計額を初めて見て驚きます。社長1人の会社では、会社負担分も自分の会社のお金なので、設立前の資金計画にこの合計額を入れておくと見通しが立てやすくなります。
ここがポイント
社長1人でも「法人+報酬あり+70歳未満」なら、健康保険・厚生年金保険の両方に加入。従業員の人数は関係しない。
報酬額ごとの保険料の違いは社会保険料はいくら?計算のしかたで、加入する日をいつと考えるかは社会保険はいつから?加入日で確かめられます。
疑義照会回答(厚生年金保険 適用)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
ケース2:最初の半年は報酬ゼロ、7か月目から月20万円の44歳

44歳のKさんは、個人で請け負っていた仕事を引き継ぐ形で会社設立をしますが、売上の入金が安定するまでの半年は役員報酬をゼロにし、7か月目から月20万円を払う計画です。
Kさんしか働いておらず、そのKさんに報酬がないという前提では、会社側に加入対象の人がいません。こうした法人は適用に必要な条件を欠くと日本年金機構が案内しています。設立の登記だけで健康保険に入れるわけではないため、Kさんは事業開始前からの国民健康保険・国民年金を続けることになります。ほかに有給で働く役員や従業員がいる場合は、この例とは違う判断が必要です。
7か月目に報酬が始まると、法人・報酬あり・70歳未満の3つがそろい、そこから加入します。Kさんは44歳なので介護保険料も加わり、標準報酬月額20万円・令和8年度・東京都・協会けんぽで、本人負担は健康保険料9,850円・介護保険料1,620円・子ども・子育て支援金230円・厚生年金保険料18,300円の合計30,000円です。
報酬が始まった時点でKさんがやることは2つあります。会社の社会保険への加入と、それまで入っていた国民健康保険の脱退です。国民健康保険の脱退は自動では行われず、職場の健康保険に加入したら14日以内に届け出るよう、多くの市区町村が案内しています。会社設立から半年後の出来事なので、報酬を払い始める月をカレンダーに書いておくと忘れにくくなります。
注意
保険料の負担を避ける目的だけで報酬ゼロの期間を延ばしたり、実際の働き方と合わない報酬額にしたりすることは勧めません。報酬ゼロの間は、会社の社会保険の傷病手当金なども受けられません。報酬ゼロの期間の過ごし方は役員報酬なし・報酬ゼロのときで扱っています。
健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
ケース3:会社員を続けながら、自分の会社から月5万円を受ける52歳

52歳のLさんは、勤め先の会社員を続けたまま、週末の仕事を法人にするため会社設立をしました。社長は自分1人で、自分の会社からは役員報酬を月5万円受け取る予定です。
物差しに当てはめると、自分の会社も法人で、報酬があり、70歳未満です。つまり自分の会社でも被保険者になる事実が生じ、勤め先と合わせて2つの適用事業所で同時に被保険者になります。報酬が少額であっても、それだけで加入しなくてよいことにはならない、というのがこのケースの要点です。
Lさんの保険料は、自社の5万円だけで独立して計算するものではありません。本業の給与を足した報酬から計算用の等級を決め、2社の報酬の比率で負担額を振り分けます。主たる事業所を選ぶための届出も必要になるので、「会社設立後の手続き」のテーマで確認します。加入先が二つでも、保険料を単純に二重徴収する仕組みとは異なります。
Lさんのように、会社設立の段階では報酬を少額にしておく人は少なくありません。ただ、少額でも2社で被保険者になる以上、勤め先の給与と合算した標準報酬月額で保険料が決まり、届出も必要になります。「月5万円なら手続きは要らないだろう」と考えて放っておくと、あとで加入の手続きをさかのぼって行うことになりかねません。
勤め先に副業が知られるかどうか、勤め先の健康保険が健康保険組合かどうかなど、会社員を続ける人には固有の論点があります。このサイトでは会社員・在職中・副業で会社設立をハブにして、二以上事業所勤務で手続きの考え方を扱っています。
複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
ケース4:71歳で合同会社を設立、報酬月41万円の社長

71歳のMさんは、長年の経験を生かして合同会社を設立し、代表社員として月41万円の報酬を受け取ります。合同会社は株式会社と同じ法人なので、1つ目の物差しは同じように当てはまり、報酬があるので2つ目も満たします。
Mさんは71歳なので、通常の厚生年金の加入年齢を過ぎています。すでに老齢年金の受給資格があり、高齢任意加入には当たらないという前提なら、会社で負担するのは健康保険側です。その健康保険も原則75歳で後期高齢者医療へ替わります。なお、65歳以降の介護保険は市区町村の取扱いを別に確認するため、会社の額表に介護の欄がないことだけで負担がなくなるとは考えません。
| 項目 | Mさん(71歳)の扱い | 本人負担(月) |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 加入(標準報酬月額41万円) | 20,192.5円 |
| 子ども・子育て支援金 | 健康保険とあわせて納める | 471.5円 |
| 介護保険料 | 65歳以上は市区町村に納める | 会社の告知額には入らない |
| 厚生年金保険料 | 70歳以上なので加入しない | なし |
役員の仕事から報酬を受けるMさんは、年金の受取額にも目を向けます。厚生年金の保険料を払わなくても、働きながら受け取る老齢厚生年金の一部が調整されることはあります。報酬と年金を並べる計算を確認し、70歳前後で変わる資格と併せて読んでください。法人形態による確認は合同会社の社員の加入で扱います。
厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
ケース5:社長は報酬あり、妻を役員にして報酬月8.8万円を払う39歳

39歳のNさんは社長として報酬を受け、36歳の妻も役員に迎えて月8.8万円の報酬を払うことにしました。妻はそれまで、Nさんの被扶養者(被保険者に養われ、保険料を負担せずに健康保険を使える家族)でした。
3つの物差しは、会社ごとではなく人ごとに当てはめます。妻も法人から役員として報酬を受けるなら、妻自身が被保険者になるのが原則です。妻はNさんの被扶養者から外れ、自分の標準報酬月額(8.8万円の等級)で保険料を負担します。令和8年度・東京都・協会けんぽ・36歳の前提で、妻の本人負担は健康保険料4,334円・子ども・子育て支援金101.2円・厚生年金保険料8,052円です。
年金の面でも変化があります。妻がNさんの配偶者として国民年金の第3号被保険者だった場合、自分の会社の厚生年金保険に加入すれば第2号被保険者に変わります。保険料の負担が生まれるかわりに、妻自身の厚生年金の加入期間が積み上がる、という変化です。会社設立をきっかけに家族の加入先がまとめて動くので、家族の分も一覧にしておくと手続きの漏れを防げます。
一方で、名目だけの役員で実際には働いていない場合など、実態によって判断が分かれる余地もあります。家族への報酬は「誰が、どんな実態で、いくら受け取っているか」で見られるので、形だけの報酬設定は避け、迷うときは年金事務所に確かめてください。家族を役員にするときの判断材料は家族・妻を役員にする場合、扶養の条件は扶養に入れる家族の条件で扱っています。
従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
設立前に決めておく3つのこと:報酬を出すか・いつから・いくら

5人のケースを並べると、社長1人の会社設立で社会保険の扱いを左右するのは、ほとんどが役員報酬にかかわる決定だと分かります。会社設立の書類をそろえる段階で、次の3つを決めておくと、加入の判断と資金の見込みが一度に立ちます。

- 報酬を出すか出すなら会社は適用事業所になり、社長は被保険者になる。出さないなら会社の社会保険には加入できず、国保・国民年金で過ごす。
- いつから出すか報酬の支払い対象が始まる時期が、加入日を考える手がかりになる。決めた内容は株主総会の議事録などの書面に残す。
- いくら出すか報酬月額が標準報酬月額の等級に当てはめられ、毎月の社会保険料が決まる。会社負担と本人負担の両方が会社の口座から出ていく。
報酬の額をどう決めるか(税金とのかね合いや改定のルール)は、このサイトの範囲外で、「節税・会社員の会社設立」のテーマのテーマで扱う内容です。ここでは、決めた結果として社会保険の加入と保険料がどうなるかを、数字で確かめておくことを勧めます。加入すると決まったら、事実発生から5日以内に新規適用届と資格取得届を出します。書き方は「会社設立後の手続き」のテーマに委ねます。
新規適用の手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
まとめ:社長1人の加入義務は、自分に近いケースから当てはめる

Jさんのように退職後すぐ有給で経営を始める人、Kさんのように無報酬の期間を置く人では、会社設立の日が同じでも保障の移り方が違います。Lさんは本業との合算、Mさんは年齢による制度の区切り、Nさんは妻自身の役員資格が確認点でした。自分の例に近い人物を選んだうえで、働き方や家族構成の違う部分をメモすると、社会保険の相談で必要な説明が具体的になります。

- 法人なら社長1人でも適用事業所になりうる(事業主のみでも強制適用)
- 役員報酬がなければ被保険者がおらず、会社は加入できない
- 70歳以上の社長は厚生年金保険に加入せず、健康保険だけ
- 会社員を続けながら報酬を受ける人は、二以上事業所勤務になる
- 家族役員も、報酬を受けるならその人自身が被保険者
加入しないままにした場合の扱いは社会保険に入らない・未加入のリスクで、加入したあとの初回の支払いは社会保険料はいつから払う?初回の支払いで確かめられます。
法人の事業所は、すべて厚生年金保険の適用事業所となるはずですが、私の周囲に未加入の事業所を見かけます。加入する義務があるのではないですか。|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
最後に、読んでくださったあなたへ
会社設立の準備では、定款や登記の書類に意識が向き、社会保険は「あとで考えること」になりがちです。けれど、社長1人の会社の社会保険は、報酬を出すか・いつから・いくらかを決めた瞬間に、ほとんど答えが出ています。5人のなかから自分にいちばん近い人を選び、その人の条件を自分の数字に置き換えてみてください。どのケースにも当てはまらない事情があるときは、管轄の年金事務所か社会保険労務士に、決めようとしている報酬の内容を伝えて相談してみてください。
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