社長が70歳を迎えたら社会保険はどう変わる?厚生年金の資格喪失後も続く在職老齢年金の調整
この記事の目次(8項目)
60代後半で会社をつくり、役員報酬を受けながら老齢厚生年金も受け取っている社長に向けた記事です。もうすぐ70歳の誕生日が来て、会社の社会保険のうち何が変わり何が残るのか、年金の受け取り額がどうなるのかを、具体的な報酬の額に当てはめて先に知っておきたい方を想定しています。
67歳で会社設立した社長の、いまの社会保険

独立した年齢を67歳とした社長の、その後の変化を追います。会社設立後に有給で経営する社長は本人として保険に入り、この立場を被保険者と呼びます。ここで扱う社会保険は医療を担う健康保険と老後などを支える厚生年金で、40〜64歳には介護保険も加えて考えます。雇用保険・労災保険という労働保険の枠組みは分けてください。
65歳から69歳までの社長は、健康保険と厚生年金保険の両方に加入します。介護保険は65歳で第1号被保険者に切り替わっているので、会社の健康保険料に介護保険料は上乗せされません。役員報酬が月41万円なら、標準報酬月額(保険料計算に使う区切りの金額)は41万円です。
60代後半で会社設立をする人には、定年まで勤めた会社を退いてから自分の会社をつくった人、個人事業を法人にした人など、いろいろな経緯があります。どの経緯でも、法人から役員報酬を受け取れば会社の社会保険に加入する点は同じです。国民健康保険や任意継続から会社の健康保険へ移る場面の整理は、社長1人の会社の加入義務も参考になります。
| 内訳(標準報酬月額41万円) | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|
| 健康保険料(9.85%) | 20,192.5円 | 20,192.5円 |
| 子ども・子育て支援金(0.23%) | 471.5円 | 471.5円 |
| 厚生年金保険料(18.300%) | 37,515円 | 37,515円 |
| 子ども・子育て拠出金(0.36%) | なし | 1,476円 |
| 合計 | 58,179円 | 59,655円 |
本人と会社を合わせると、毎月約11万8千円が社会保険料として出ていきます。社長1人の会社なら、どちらの負担も結局は会社の資金から払うことになります。この金額のうち、70歳を境にどこが消えるのかを次の章から見ていきます。保険料の計算の流れは社会保険料はいくら?計算でも確かめられます。
令和8年度保険料額表(東京支部)PDF|協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)/確認日 2026年10月11日
70歳の誕生日の前日に、厚生年金の資格を失う

厚生年金の通常の被保険者でいられるのは70歳になるまでです。年齢に達する日を数える際は誕生日の前日を用いるため、その日が資格の切り替わる日になります。今回の社長が同じ会社の役員として働き続ける場合でも、この区切りは確認します。健康保険は別の年齢区分なので、厚生年金と一緒に終了するわけではありません。
保険料がいつまでかかるかも押さえておきます。日本年金機構のQ&Aによると、厚生年金保険料は「70歳の誕生日前日が属する月の前月まで」です。たとえば11月15日生まれの社長なら、70歳到達日は11月14日なので、厚生年金保険料は10月分まで。11月1日生まれなら、到達日が10月31日になるため、9月分までです。誕生日が月の初日かどうかで、1か月ずれる点に注意してください。

70歳になった時点の報酬が、それまでの標準報酬月額と同じ額なら、日本年金機構が資格喪失と70歳以上被用者への切り替えを処理するので、会社からの届出は不要とされています。報酬が変わる場合は届出が必要です。届出の様式や期限の細かな扱いは「会社設立後の手続き」のテーマで確かめてください。
厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届(手続概要PDF)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
70歳以降の社会保険料:月41万円の社長は本人負担が約3分の1に

同じ仕事と報酬のまま70歳の区切りを越えても、通常の厚生年金への加入は続きません。70歳以上被用者として働く期間は、その保険料を払う期間にも、将来の年金を上積みする加入期間にも入りません。この例では月41万円の報酬が続くため、給与からの控除は医療保険と支援金を中心に見ることになります。

ただし、同じ説明には続きがあります。70歳以上被用者の期間は、保険料を払わない代わりに年金額にも反映されません。69歳までは、働いて厚生年金保険料を納めれば将来の年金額に反映される仕組みがありましたが、70歳以降はその積み増しがなくなるということです。保険料が軽くなる分、年金を増やす道も閉じる、と理解しておくのが正確です。
会社の側から見ると、70歳到達後は社長の分の厚生年金保険料の会社負担もなくなります。会社設立から数年がたち、社長1人の会社で役員報酬を安定して払っている段階なら、社会保険料の支出が月に数万円単位で変わることになるので、資金繰りの見通しも組み直しておくと安心です。
健康保険のほうは、75歳になるまで被保険者のままです。配偶者を被扶養者にしている場合、その扱いも変わりません。被扶養者は、被保険者に生計を維持されていて保険料を負担せずに健康保険を使える家族のことで、60歳以上なら年間収入180万円未満が目安です。扶養の条件は扶養・家族で確かめられます。
厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届(手続概要PDF)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
厚生年金を抜けても、在職老齢年金の調整は続く

社長が70歳になった後も、老齢厚生年金と役員報酬は無関係にはなりません。以前の厚生年金加入歴など、70歳以上被用者の条件に当たる人が対象の事業所で働けば、報酬と受取年金に応じた調整が残ります。会社設立をした時点で入る保険だけを見る記事とは異なり、ここでは続けて働く途中で何が変わるかを追っています。保険料の控除が消えた月にも、年金通知の確認は必要です。
計算の材料は二つです。一つは年金の報酬比例部分を月額で見た「基本月額」で、加給年金は含めません。もう一つは給与に当たる報酬と過去1年間の賞与を月割りした分を合わせる「総報酬月額相当額」です。70歳以上では保険料を徴収するための等級ではなく、それに相当する報酬・賞与の額を用います。この二つの計を令和8年度の65万円と比べて、超過する部分があるか確認します。

このしくみの全体像は在職老齢年金と年金をもらいながらの会社設立でも扱っています。この記事では、70歳以上の社長が報酬額ごとにどうなるかに絞って次の章で計算します。
在職老齢年金の計算方法|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
報酬額ごとの試算:基本月額12万円の社長の場合

老齢厚生年金の基本月額が12万円の72歳の社長を例に、役員報酬の額ごとに計算します。標準報酬月額に相当する額は、報酬の額を等級に当てはめた金額で、ここでは報酬額と同じ数字になるように置いています。賞与はない前提です。
| 役員報酬(月) | 合計(基本月額+報酬) | 止まる額(月) | 受け取る年金(月) |
|---|---|---|---|
| 41万円 | 53万円 | なし | 12万円 |
| 59万円 | 71万円 | (71万−65万)÷2=3万円 | 9万円 |
| 65万円 | 77万円 | (77万−65万)÷2=6万円 | 6万円 |
賞与がある場合には、直近1年間の標準賞与額も月割りして加えます。たとえば対象となる標準賞与額の合計が120万円なら、月額に換算した10万円を足すので、基本月額12万円と報酬相当額41万円との合計は63万円です。令和8年度の65万円という基準の内側に収まります。実際に振り込まれた賞与をそのまま使うのではなく、上限などを反映した標準賞与額を確認してください。複数回の支給や前年の賞与があるときも、対象期間に入る分をそろえて計算します。
注意
ここでの数字は計算式の当てはめ方を示すための例です。実際の基本月額や、標準報酬月額に相当する額は人によって違います。年金事務所で自分の数字を確かめてから判断してください。また、報酬の額を年金の調整に合わせて決めるかどうかは税金や会社の資金繰りとも関わるので、「節税・会社員の会社設立」のテーマの内容とあわせて考える必要があります。
在職老齢年金の計算方法|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
基準は令和8年4月に51万円から65万円へ。「62万円」との違い

令和8年度に試算するときは65万円を比較の基準にします。前年度の51万円から引き上げられたため、役員報酬を変更していなくても年金の停止額が変わり得ます。過去の試算表が手元にある場合は、報酬だけを書き換えるのではなく、何年度の基準を使っていたかも確認してください。会社設立時の数字を使い続けると、現在受け取れる額を少なく見積もる原因になります。
一方、厚生労働省の改正法の概要を読むと「50万円(令和6年度価格)から62万円に引き上げる」と書かれていて、数字が合わないように見えます。これは、改正法の概要が令和6年度の価格で表示しているのに対し、日本年金機構の65万円は令和8年度の実際の支給停止調整額だからです。基準額は年度ごとに見直されるので、計算に使うのはその年度の額です。
令和8年3月まで
支給停止の基準額は月51万円。役員報酬と年金の合計がこれを超えると調整。
令和8年4月から
基準額は月65万円(令和8年度の支給停止調整額)。改正法の概要では62万円(令和6年度価格)と表示。
会社設立をした年によっても、受けてきた調整は違います。たとえば令和7年に67歳で法人を設立し、報酬と年金の合計が月58万円だった社長は、改正前の51万円基準では毎月3万5千円の年金が止まっていました。令和8年4月以降は65万円基準になったので、同じ報酬なら全額支給に変わります。社会保険の加入そのものは変わらなくても、年金の受け取り額は制度改正で動くということです。
ネットの記事や古いパンフレットには、51万円や50万円、62万円といった数字が混在しています。どの年度の数字なのかを確かめてから当てはめるようにしてください。翌年度以降の額も、年度が変わるたびに日本年金機構の案内で確かめるのが確実です。
在職老齢年金制度が改正されました|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
70歳を迎える前に社長が確かめておきたいこと

誕生日を迎える前後で、会社の社会保険の中身が変わります。数か月前から次の点を確かめておくと、慌てずに済みます。社長1人の会社では、事業主としての立場と被保険者としての立場の両方で確かめることになります。
- 誕生日から、厚生年金保険料がどの月の分まで続くか
- 70歳になった時点で役員報酬の額を変える予定があるか(変えるなら届出の要否が変わる)
- 老齢厚生年金の基本月額と、報酬・賞与の合計が65万円を超えるか
- 配偶者の被扶養者の認定に影響する収入の変化がないか
- 会社にほかの役員や従業員がいれば、その人の加入状況も変わらないか
配偶者も役員である会社では、二人の誕生日を同じ予定にまとめないことが必要です。会社設立時に一緒に加入していても、60代の配偶者はまだ厚生年金を納める一方、70歳の社長は通常その対象を外れます。夫婦それぞれの役員資格と現在の年齢を、個別の欄で確認してください。
医療についても「これまでとすべて同じ」とは決めつけません。会社の健康保険に残る期間であっても、窓口負担などは年齢や所得に応じて確認が必要です。自社の健康保険の加入先に案内を確かめてください。退任や無報酬への変更で資格そのものが変わる場合には、退職後の医療保険の選択も検討します。
- Q. 70歳を過ぎてから会社設立をした場合も、同じ計算ですか?
- はい。70歳以上で設立した場合は最初から厚生年金に入らず、健康保険だけの加入になります。詳しくは70歳以上で会社設立した社長の社会保険をご覧ください。
- Q. 70歳以降も厚生年金保険料を払って年金を増やせますか?
- 原則としてできません。老齢年金の受給資格を満たしていない人に限り、高齢任意加入という仕組みがあります。
新たに法人事業所を設立し、役員報酬を受け取ることにしました。現在75歳で後期高齢者医療保険に加入しており、厚生年金も受給しているため、社会保険の手続きはしなくてもよいでしょうか。|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
まとめ:70歳で消えるのは厚生年金保険料、残るのは健康保険と年金の調整

今回の社長の時間軸では、創業時、70歳に達するとき、その後も働く期間で確かめる内容が異なります。70歳前には医療と年金双方の保険料を払い、到達後は通常の厚生年金保険料がなくなります。ただし、健康保険と在職中の年金調整は残るため、会社から出るお金が減ったことと、年金の受取額が増えることを同じ出来事として扱わないようにします。配偶者の扶養も、引き続き認定条件を満たすか確認します。
- 1
資格喪失
70歳到達日(誕生日の前日)に厚生年金保険の資格を失う - 2
保険料
東京都・令和8年度・月41万円なら、本人負担は月58,179円から20,664円に - 3
年金額
70歳以上被用者の期間は年金額に反映されない - 4
在職老齢年金
基本月額+総報酬月額相当額が65万円を超えると、超えた分の半分が止まる
誕生日前の面談では、生年月日だけでなく、今後の月額報酬、直近の賞与、年金の通知をそろえて相談すると具体的に確認できます。基本に戻りたいときは一人で法人を営む場合の社会保険へ進んでください。会社設立後も続ける業務と報酬を整理しておくことが、年齢の区切りに備える助けになります。
厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
70歳は、社長にとって社会保険の負担が軽くなる節目であると同時に、年金を増やす道が閉じる節目でもあります。厚生年金保険料がなくなる月、在職老齢年金で止まる額、健康保険がいつまで続くか。この3つを誕生日の前に数字で確かめておけば、役員報酬の見直しも落ち着いて考えられます。判断に迷うところは、年金事務所や社会保険労務士に自分の記録を見せて相談してください。
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