社労士に社会保険の手続きを頼む費用の考え方:会社設立時のスポットと顧問の違い
この記事の目次(8項目)
会社設立をして社会保険に加入する段階で、社会保険労務士に頼むといくらかかるのか、何に対して払うお金なのかが分からず、見積もりを取る前に考え方を整理しておきたい社長に向けた記事です。事務所の料金を比べるのではなく、自分の会社に必要な範囲を見極めたい方を想定しています。
社労士に払う費用と、毎月の社会保険料は別のお金

最初に分けておきたいのは、社会保険料と社労士の報酬です。社会保険料は、健康保険と厚生年金保険(40〜64歳は介護保険を含む)の保険料のことで、会社と本人が原則として半分ずつ負担します。こちらは報酬の額と年度・都道府県の料率で決まり、誰が手続きをしても変わりません。社労士の報酬は、手続きを任せる対価として会社と事務所の契約で決まるお金です。
具体的な数字で見てみます。令和8年度・東京都・協会けんぽ・50歳の社長が、役員報酬月20万円(標準報酬月額20万円)で会社設立後に社会保険へ加入した場合です。
| 内訳 | 本人負担(月) | 会社負担(月) |
|---|---|---|
| 健康保険料(9.85%) | 9,850円 | 9,850円 |
| 介護保険料(1.62%) | 1,620円 | 1,620円 |
| 子ども・子育て支援金(0.23%) | 230円 | 230円 |
| 厚生年金保険料(18.300%) | 18,300円 | 18,300円 |
| 子ども・子育て拠出金(0.36%) | なし | 720円 |
| 合計 | 30,000円 | 30,720円 |
社長1人の会社では、本人負担分も会社負担分も実質的には同じ財布から出ます。月に約6万円の社会保険料は、手続きを自分でやっても社労士に頼んでも同じです。社労士の費用を考えるときは、この保険料とは切り離して「事務を任せる対価としていくらまでなら見合うか」を考えることになります。計算の手順は社会保険料はいくら?計算で扱っています。
もう1つ前提として押さえておきたいのは、社会保険への加入そのものは会社の義務だという点です。社労士に頼むかどうかは「加入するかどうか」の選択ではなく、「加入の事務を誰が受け持つか」の選択です。費用を理由に加入の届出を後回しにすると、保険料はさかのぼって納めることになり、かえって負担が重くなります。
令和8年度保険料額表(東京支部)PDF|協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)/確認日 2026年10月11日
社労士の報酬は事務所ごと。受任の前に基準を示す決まりがある

社労士の報酬には、国が決めた一律の料金はありません。全国社会保険労務士会連合会も、料金は事務所により異なるため事前に確認するよう案内しています。そのため「相場はいくらか」を一つの数字で示すのは難しく、このサイトでは個別の事務所の料金を並べて比べることもしていません。
そのかわり、依頼する側を守る決まりがあります。社会保険労務士法施行規則の第12条の10は、社労士が事務を受任しようとするときは、あらかじめ依頼者に対して、報酬額の算定の方法その他の報酬の基準を示さなければならない、と定めています。つまり、頼む前に「何をするといくらになるのか」の基準を見せてもらえる立場にある、ということです。
ここがポイント
見積もりを依頼するときは、総額だけでなく「どういう計算でその額になるのか」(1件あたりか、人数あたりか、月額か)を聞いてかまいません。基準を示すことは社労士側の義務として定められています。
設立したばかりの時期は比べる材料が少ないので、複数の事務所から基準を聞き、同じ範囲の作業で比べるのが現実的です。範囲がそろっていない見積もりどうしを比べても、高い安いは判断できません。範囲の確かめ方は、このあとの項目で整理します。
見積もりを受け取ったら、金額と一緒に、支払いの時期(作業前か作業後か)、追加の作業が生じたときの扱い、契約の期間と解約の条件も確かめておくと安心です。会社設立の時期は出費が重なるので、いつ、いくら出ていくのかが分かるだけでも資金繰りの計画が立てやすくなります。
社会保険労務士法施行規則 第12条の10(報酬の基準を明示する義務)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
スポット(単発)と顧問契約:何に対して払うのかが違う

依頼の形は、大きく2つに分かれます。特定の手続きだけを単発で頼むスポットと、毎月決まった額で継続的に任せる顧問契約です。全国社会保険労務士会連合会は、顧問契約までは考えていない場合でも、特定の手続きやトラブルについてスポットで相談・依頼できると案内しています。
スポット(単発)
会社設立時の加入手続きだけ、算定基礎届だけ、といった形で1件ずつ頼む。届出が少ない社長1人の会社では検討しやすい
顧問契約
毎月の報酬で、入退社の届出や相談などを継続して任せる。何が月額に含まれるかは契約ごとに違う

1年目に限れば、社長1人で報酬が一定の会社なら、届出が必要になる場面は加入時と7月くらいに限られます。この場合はスポットで足りることも多く、反対に従業員を雇う予定があるなら、人の出入りのたびに頼むことになるので、顧問契約と比べる意味が出てきます。
- Q. 設立時の加入だけスポットで頼み、あとは自分でやってもいい?
- かまいません。最初の届出を見本にして、その後の算定基礎届などを自分で出す会社もあります。どこまでを頼んだのかを記録に残しておくと、後で迷いません。
- Q. 顧問契約にすれば、社会保険の届出はすべて月額に含まれる?
- 契約によります。月額に含まれる範囲と、1件ごとに別の料金になる作業は事務所ごとに違うので、契約前に一覧で確かめてください。
- Q. 途中で依頼の形を変えられる?
- 従業員を雇う、事業所が増えるといった変化に合わせて、スポットから顧問へ、またはその逆に切り替える会社もあります。条件は依頼先と相談して決めます。
社労士についてのよくある質問|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
見積もりで確かめたいこと、思い込みやすいこと

見積もりを取るときに一番大事なのは、何が含まれているかを言葉で確かめることです。社会保険の手続きを頼んだつもりでも、同じ会社設立の流れで生じる労働保険や給与計算は別の作業として扱われることがあります。

税金の相談は税理士の業務で、社会保険の書類作成・提出代行は社会保険労務士の業務です。設立時にどちらにも関わる話が出てきますが、誰が何を担うかは事務所ごとの体制によるので、連携しているかどうかも含めて確かめてください。役員報酬の額をどう決めるかという税務の論点は、「節税・会社員の会社設立」のテーマの担当です。
見積もりの段階で、自社の状況を正確に伝えることも大切です。役員報酬の額、従業員を雇う時期、家族を被扶養者にする予定、70歳以上の役員の有無などで作業量は変わります。後から条件が変わると追加の費用が生じ得るので、分かっている予定は最初に伝えておくと、見積もりと実際のずれが小さくなります。
会社設立と同時に家族を役員にする場合は、その家族が被保険者になるのか、被扶養者になるのかで届出の内容が変わります。判断の材料は家族・妻を役員にする場合にまとめているので、見積もりの前に自社の形を決めておくと話が早くなります。
社会保険労務士法施行規則 第12条の10(報酬の基準を明示する義務)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
自分でやる場合の「見えない費用」も同じ物差しで測る

比べる相手は「0円」ではありません。社労士に頼む費用の向かい側には、自分で動く費用があります。自分で手続きをする場合にも、調べる時間、書類を作る時間、年金事務所に確かめる時間がかかります。誤りがあれば訂正の届出が必要になり、保険料がさかのぼって変わることもあります。
| 比べる項目 | 自分でやる | 社労士に頼む |
|---|---|---|
| 社会保険料 | 同じ | 同じ |
| 現金の支出 | 原則なし(電子申請の準備などは別) | 契約で決めた報酬 |
| 社長の時間 | 調べる・作る・確かめる時間 | 資料をそろえて渡す時間 |
| 誤りへの対応 | 自社で訂正する | 契約の範囲で対応してもらえることがある |
| 制度改正への追随 | 自分で情報を追う | 依頼先に確かめられる |
社会保険料の規模も、判断の目安になります。先ほどの50歳・月20万円の例なら、1年間で本人負担が360,000円、会社負担が拠出金を含めて368,640円です。これだけの額が毎月正しく計算され、給与から控除され、期限までに納められているかを確かめる仕事を誰が持つのか、という視点で考えると、報酬の見合い方が判断しやすくなります。
もちろん、社長1人の会社で事務に慣れてしまえば、毎月の控除と年1回の届出に使う時間はそれほど多くありません。逆に、制度の改正が続く時期や、年齢で扱いが変わる役員がいる時期は、調べる時間が増えます。見えない費用は一定ではなく、会社の状況とともに動くものだと考えておくと現実に近くなります。

なお、自分でやると決めた場合の準備や判断の材料は、会社設立の社会保険手続きは自分でできる?で扱っています。
労働社会保険手続業務|社労士とは|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
会社設立の1年目に、依頼の費用が生じやすい時期

費用をいつ払うことになるかも、資金繰りの面では気になるところです。会社設立の1年目を例に、社会保険の事務が集まる時期を並べてみます。スポットで頼むなら、この時期ごとに費用が生じると考えておくと見通しが立ちます。

5月に資格を取得した人は、7月1日時点で被保険者なので算定基礎届の対象になります。日本年金機構によると、算定基礎届の提出が不要になるのは6月1日以降に資格を取得した人などに限られます。設立した月によって最初の夏の事務が変わるので、見積もりを取るときは設立月も伝えてください。賞与を出す予定がある会社は、支給日から5日以内の賞与支払届も年間の事務に加わります。従業員を雇う時期が決まっている場合も同じで、その人が加入の対象になるか、家族を扶養に入れるかで届出の数が変わります。パートやアルバイトの加入条件は適用拡大で段階的に広がっているため、雇う時期の制度で判定することになります。設立後に保険料が見直される流れは算定基礎・月額変更とその後にまとめました。
定時決定(算定基礎届)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
費用をかけずに確かめられる窓口もある

依頼するかどうかを決める前に、費用をかけずに確かめる方法もあります。全国社会保険労務士会連合会は、各都道府県の社会保険労務士会が実施する無料相談会や、行政機関の年金・労務相談の窓口を活用する方法を挙げています。
- 年金事務所:会社の所在地を管轄する事務所で、加入や保険料の扱いを確かめられる
- 都道府県の社会保険労務士会:無料相談会などで、自社に当てはめた考え方を聞ける
- 社労士事務所のスポット相談:有料の場合も、届出を頼む前に論点だけを確かめられる
- 協会けんぽの支部:保険料率や健康保険の給付など、健康保険の扱いを確かめられる
無料の窓口で論点を整理しておくと、社労士に見積もりを依頼するときも「何を頼みたいのか」がはっきりします。たとえば「社長1人で、来年パートを1人雇う予定。加入の判定と届出をどこまで頼むべきか」と具体的に伝えられれば、返ってくる見積もりも比べやすくなります。
ただし、無料の窓口は一般的な扱いを答える場であり、会社の書類を代わりに作ってもらう場ではありません。作成や提出まで任せたいときは、社会保険労務士への依頼になります。
相談に行くときは、役員報酬の月額、報酬の支払いを始めた日、社長と家族の年齢、雇用の予定をメモにしておくと話が早く進みます。社会保険の加入や保険料の扱いは、こうした事実の組み合わせで決まるからです。
社労士に相談する|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
まとめ:費用は「範囲」と「時間」をそろえて比べる

社労士に社会保険の手続きを頼む費用は、事務所ごとの契約で決まります。社会保険料とは別のお金で、頼んでも頼まなくても保険料の額は変わりませんし、加入の義務がなくなるわけでもありません。比べるときは、作業の範囲をそろえ、自分でやる場合の時間と訂正の手間も同じ物差しに乗せることが大切です。
- 1
2つのお金を分ける
社会保険料は制度で、社労士の報酬は契約で決まる - 2
範囲を言葉にする
加入時だけか、7月の算定基礎届や人の出入りも含むか - 3
計算方法を聞く
受任前に報酬の基準を示すことは社労士の義務 - 4
自分でやる費用も測る
時間、確認の手間、誤りの訂正を見積もる
会社設立の直後は、登記や税務の費用も重なる時期です。社会保険の手続きにどこまでお金をかけるかは、会社の人数と予定、社長が使える時間で変わります。年金事務所の窓口の場所は日本年金機構のサイトで調べられます。届出の書き方そのものは「会社設立後の手続き」のテーマで確かめてください。
全国の相談・手続き窓口|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
最後に、読んでくださったあなたへ
社労士への依頼は、高いか安いかよりも、自社に必要な範囲に見合っているかで考えるほうが失敗が少なくなります。見積もりを取る前に、この記事のチェックリストで頼みたい範囲を書き出し、役員報酬の額や雇用の予定を添えて相談してみてください。迷うときは、まず社会保険労務士会の無料相談や年金事務所で論点を整理しておくと、依頼するかどうかの判断がずっとしやすくなります。
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