会社設立の社会保険手続きは自分でできる?社労士に頼むかを決める判断材料
この記事の目次(8項目)
会社設立を終えた、あるいは目前に控えていて、社会保険の加入手続きを自分で済ませるか社会保険労務士に頼むかを決めかねている社長に向けた記事です。届出の書き方ではなく、「そもそも自分でやってよいのか」「やるとしたら何が続くのか」「何を基準に決めればいいのか」を知りたい方を想定しています。
会社設立の社会保険手続きは、会社が自分で出してよい

最初に言葉をそろえておきます。この記事で「社会保険」と呼ぶのは、健康保険と厚生年金保険の2つです(40〜64歳の人は介護保険も健康保険と一緒に納めます)。労災保険と雇用保険は「労働保険」という別の制度で、届出先も考え方も違うので、ここでは混ぜずに扱います。
法人は、社長1人でも役員報酬を払っていれば社会保険の適用事業所、つまり健康保険と厚生年金保険に加入しなければならない事業所になります。加入の届出をする義務を負っているのは会社(事業主)です。社会保険労務士に頼まなければならない、という決まりはありません。会社設立をした社長が自分で書類を用意して出しても、手続きとしての効力は同じです。
日本年金機構も、新規適用届は事業主が提出するものとして案内しています。期限は事実が生じた日から5日以内と短いのですが、様式の書き方や添付書類、どこへどう出すかといった具体的な段取りはこのサイトの守備範囲の外なので、「会社設立後の手続き」のテーマで確かめてください。ここでは、自分でやるか頼むかを決めるための材料に絞ります。
従業員を雇う会社では、社会保険とは別に労働保険の手続きも生じます。労働保険の届出先は労働基準監督署やハローワークで、社会保険の年金事務所とは窓口が分かれます。社会保険労務士はどちらの手続きも扱えるので、会社設立のあと人を雇う予定があるなら、両方をまとめて考えると比べやすくなります。
ここがポイント
社労士に頼むかどうかで変わるのは「誰が書類を作り、誰が出すか」だけです。会社が社会保険に加入する義務も、毎月の社会保険料の額も、依頼の有無では変わりません。
新規適用の手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
他人に頼むなら社労士、という法律上の線引き

自分で出すのは自由ですが、誰かに頼む場合には線引きがあります。社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士(または社会保険労務士法人)でない者が、他人の求めに応じて報酬を得て、社会保険の届出書類の作成や提出の代行を業として行うことを禁じています。ただし書きで、ほかの法律に別段の定めがある場合などの例外は置かれています。
裏を返すと、会社の届出を会社の中の人が作るのは、この条文が想定している「他人の求めに応じ報酬を得て業として」行う場面とは違います。社長本人が作る、総務を担当する役員が作る、という形は、会社が自分で手続きをしていることになります。
| 誰が書類を作る・出すか | 社会保険の届出として |
|---|---|
| 社長本人 | 会社が自分で行う手続きなので問題ない |
| 会社の役員・従業員(自社の事務として) | 会社が自分で行う手続きの一部 |
| 社会保険労務士・社会保険労務士法人 | 報酬を受けて書類作成・提出代行ができる |
| 上記以外の人に謝礼を払って継続的に頼む | 第27条の制限にかかり得る(例外は法令で限られる) |
知り合いの経営者や、社会保険が専門ではない事業者に「ついでに出しておいて」と謝礼つきで頼むと、この線を越えるおそれがあります。設立時の登記や税務を手伝ってもらった相手が、社会保険の書類まで扱えるとは限らない点は覚えておいてください。
社会保険労務士法 第27条(業務の制限)|e-Gov法令検索e-Gov法令検索(デジタル庁)/確認日 2026年10月11日
会社をつくったあとも、社会保険の事務は毎年まわってくる

「自分でやるか」を考えるとき、設立直後の加入手続きだけを思い浮かべる人が多いのですが、社会保険の事務はそこから先のほうが長く続きます。会社が適用事業所であり続ける限り、毎月・毎年の事務が発生します。

毎年7月の算定基礎届は、7月1日時点の被保険者全員について4〜6月の報酬を届け出るもので、社長1人の会社でも出します。決まった標準報酬月額(保険料の計算の基礎として、報酬を区切りのよい等級に当てはめた額)は9月から翌年8月まで使われます。設立後に保険料がどう見直されるかは算定基礎・月額変更とその後で扱っています。
ここで押さえておきたいのは、加入の届出を自分で出せたとしても、その後の年中行事を誰が受け持つかは別に決めておく必要がある、ということです。設立時だけ社労士に頼み、その後は自分で回すという分け方もありますし、その逆もあります。
毎年の事務の中で、とくに時期が固定されているのは7月の算定基礎届と、協会けんぽの料率が変わる春の見直しです。この2つをカレンダーに入れておくだけでも、自分で回すときの負担感はかなり変わります。反対に、賞与や報酬の改定、人の出入りは時期が読めないので、起きたときにすぐ気づける仕組みが要ります。
定時決定(算定基礎届)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
自分でやるか社労士に頼むかを分ける判断材料

どちらが正解ということはありません。会社の人数、届出が発生する頻度、社長が事務に使える時間などを並べて、自社に当てはめてみるのが確実です。全国社会保険労務士会連合会は、社労士に相談が寄せられやすい場面として、入社・退社の手続きの負担、電子申請義務化への対応、法改正のたびに書類が変わることなどを挙げています。

表の右側に多く当てはまる会社ほど、届出の件数が増え、判断が難しい人も出てきます。たとえば70歳を過ぎた役員は厚生年金保険の被保険者にならない一方で健康保険には加入する、といった扱いの違いがあり、間違えると後から訂正の手間がかかります。
Q. 会社設立のときだけ社労士に頼むことはできる?
A. できます。全国社会保険労務士会連合会も、顧問契約を結ばないスポット(単発)での相談・依頼ができると案内しています。どこまでを頼むかは事務所との契約で決まります。
Q. 自分で出した届出に誤りがあったらどうなる?
A. 訂正の届出が必要になり、保険料の額がさかのぼって変わることもあります。誤りに気づいた時点で年金事務所に相談するのが確実です。
Q. 税理士に設立を頼んだが、社会保険も一緒に頼める?
A. 社会保険の書類作成・提出代行を報酬を得て業として行えるのは、原則として社会保険労務士です。税理士事務所が社労士と連携している場合もあるので、誰が担当するのかを確かめてください。
反対に、社長1人で報酬も一定という会社なら、加入の届出のあとは毎月の納付と年1回の算定基礎届が中心です。事務の量そのものは多くありません。社長1人の会社が加入の対象になるかどうかの判定は社会保険の加入義務:社長1人の場合から確認できます。
労働社会保険手続業務|社労士とは|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
ケースで比べる:社長1人の会社と、従業員を雇う会社

具体的な人物を置いて考えてみます。どちらも東京都で会社をつくり、協会けんぽに加入する前提です。

Aさんの社会保険料を見ておくと、令和8年度・東京都・協会けんぽ・40歳未満で標準報酬月額30万円の場合、本人負担は健康保険料14,775円、子ども・子育て支援金345円、厚生年金保険料27,450円です。会社負担も同額で、さらに会社だけが負担する子ども・子育て拠出金(標準報酬月額の0.36%)が1,080円かかります。手続きを自分でやっても社労士に頼んでも、この額は変わりません。
Bさん自身の分も同じ前提で見ると、40歳以上なので介護保険料が加わり、標準報酬月額41万円の本人負担は健康保険料20,192.5円、介護保険料3,321円、子ども・子育て支援金471.5円、厚生年金保険料37,515円です。ここに従業員3人分が上乗せされ、会社設立の1年目から給与計算と控除の事務が毎月発生します。
Bさんの会社では、パートの人が加入の対象になるかどうかを人ごとに判定する必要があります。週の所定労働時間と月の所定労働日数が正社員の4分の3以上なら被保険者になるのが基本で、短時間の人については適用拡大のルールが段階的に広がっています。判定の考え方は従業員・パートの加入条件にまとめました。
就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
費用は「社労士の報酬」と「自分の時間」を並べて考える

費用の比較でよくある誤解は、「自分でやれば0円」という見方です。届出そのものに手数料はかからなくても、書類を調べて作り、確認して出すまでに社長の時間を使います。設立直後の社長にとって、その時間は営業や仕入れに回せたはずの時間でもあります。
一方、社労士に頼む場合の料金について、全国社会保険労務士会連合会は、顧問契約を結ばないスポット(単発)での依頼もでき、料金は事務所により異なるため事前の確認を勧めています。このサイトでは個別の事務所の料金を並べて比べることはしません。金額よりも、何が含まれていて何が含まれないかを確かめるほうが、比べるうえで大事だからです。
自分でやる場合にかかるもの
調べる時間、書類を作る時間、年金事務所への確認、電子申請の準備。間違えたときの訂正の手間も自社で負う
社労士に頼む場合にかかるもの
契約で決めた報酬。必要な情報(報酬額・家族の状況など)をそろえて渡す時間は残る
もう1つ見落としやすいのが、遅れたときの影響です。加入の届出が遅れても、社会保険料は本来加入すべきだった時点にさかのぼって納めることになります。自分でやると決めた会社設立直後こそ、期限を守れる段取りを用意しておくことが、結果として費用を抑えることにつながります。遅れた場合の扱いは5日を過ぎた・遅れた場合にまとめています。
費用の見積もり方や、見積もりで確かめる項目については、社労士に社会保険の手続きを頼む費用の考え方で詳しく扱っています。保険料そのものがいくらになるかは、社会保険料はいくら?計算で前提ごとに確かめられます。
社労士についてのよくある質問|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
自分でやると決めたら、先にそろえておきたいこと

自分で手続きをすると決めた場合でも、書き方を覚える前に用意しておくと楽になるものがあります。どれも届出の様式そのものではなく、判断や連絡に使う情報です。
- 役員報酬の額と、支払いを始める日(加入の起点になる)
- 社長・役員・従業員それぞれの生年月日と、基礎年金番号またはマイナンバー
- 家族を健康保険の被扶養者にする予定があるか、その家族の年収の見込み
- 会社の所在地を管轄する年金事務所の場所と連絡先
- 電子申請を使うなら、GビズIDなどのアカウントの準備
日本年金機構は、e-Gov電子申請の利用にあたって、GビズIDのアカウントを取得する方法(書類の郵送による申請のほか、事業主のマイナンバーカードとスマートフォンのアプリを使うオンライン申請)を案内しています。届出の期限は短いので、会社設立の手続きと並行して準備を始めておくと、慌てずに済みます。

最初の加入だけ社労士に頼み、仕組みが分かったところで自分に切り替える、という段階的なやり方もあります。逆に、最初は自分で出してみて、従業員を雇う時期に依頼を始める会社もあります。会社の成長に合わせて見直してよい選択です。
どちらの道を選んでも、社会保険の加入に関わる情報(報酬を決めた記録、家族の収入の見込みなど)を社内に残しておくことは共通して役立ちます。社労士に引き継ぐときも、年金事務所に問い合わせるときも、まず聞かれるのはこうした事実だからです。
電子申請(e-Gov)|日本年金機構日本年金機構/確認日 2026年10月11日
まとめ:届出の主体は会社。頼むかどうかは事務の量と時間で決める

会社設立後の社会保険の加入手続きは、会社が自分で行えます。他人に報酬を払って書類の作成や提出を任せるなら、その相手は社会保険労務士です。どちらを選んでも、加入の義務と社会保険料の額は変わりません。
- 1続く事務を見渡す
加入の届出のあとに、毎月の納付、年1回の算定基礎届、賞与や人の出入りの届出が続く - 2自社に当てはめる
人数、雇用の予定、報酬を変える頻度、事務に使える時間を並べる - 3費用を両面で見る
社労士の報酬と、自分で使う時間・訂正の手間を比べる - 4迷ったら確かめる
年金事務所、都道府県の社会保険労務士会の相談窓口を使う
社長1人で報酬が一定なら、自分で回せる範囲に収まることが多い一方、人を雇い始めると判断と届出の件数が一気に増えます。会社設立の時点で決めた分担も、従業員を雇う、賞与を出す、といった変化があれば見直してかまいません。都道府県ごとの社会保険労務士会は、連合会のサイトから探せます。届出の具体的な書き方は「会社設立後の手続き」のテーマを参照してください。
各都道府県の社労士会を探す|全国社会保険労務士会連合会全国社会保険労務士会連合会/確認日 2026年10月11日
会社設立の直後は、登記、税務、口座開設と、社長が一人で抱える仕事が重なります。社会保険の手続きを自分でやるか社労士に頼むかは、能力の問題ではなく、限られた時間をどこに使うかの問題です。この記事の判断材料に自社の人数と予定を当てはめ、迷う部分があれば年金事務所や社会保険労務士会の相談窓口で、報酬額と家族の状況を伝えて確かめてみてください。
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